今季から規制が緩和された投手の「2段モーション」について検証する。禁止されていたフォームに回帰する投手、新たに取り組む投手…。キャンプ第1クールを終え、各チームで動きが出てきた。現役時代は「2段モーション」が代名詞だった「ハマの番長」こと三浦大輔氏(日刊スポーツ評論家)に当時の経緯と考えを聞いた。

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 投手の2段モーションが緩和となり、取り入れようと練習している選手が増えている。参考になるか分からないが、何かのヒントになればと思い、自分がフォームを固めていった現役時代の経緯を紹介したい。合う、合わないは別として、すべての投手が練習に取り入れ、1度は試してみてはどうか。新たな気付きがあるかも知れない。

 プロ3年目のキャンプ、遠投を繰り返す中で偶然タイミングがずれ、左足を上げていく途中で1度止まった。そこからもう1回上げて投げるとボールに指がかかり、いい感じで投げられた。

 普段から「左足の付け根からしっかり上げ、右足の股関節の上で軸をしっかりと作りたい」と意識を持っていた。ゆっくり左足を上げることで「1、2~の3」という「間」を作ることもできるのではと考えた。当時横浜の小谷正勝投手コーチ(現巨人2軍投手コーチ)に相談した。偶然から見つかった感覚を忘れないよう、ブルペンの傾斜の中で確かめたかった。小谷コーチも許可を出してくれた。当時、審判部長を務めていた平光清さんにも問題はないかと確認してもらい、試行錯誤を繰り返した。

 足を上げる1度目と2度目で、高さ、角度、リズムと、あらゆる組み合わせを試した。1度目は遅く、低く。2度目は反動と推進力を使って速く、大きく上げると、しっかりした軸を作れた。ボールを保持したグラブを「割る」タイミングも研究し、ベストとの確信が持てたのは、1年後のことだった。

 辛抱強く見守ってくれた小谷コーチから「大きな狙いは、もう1つ、別のところにもあった」と後で聞いた。

 当時は全力投球しか頭になく、特にピンチになると力み、投げ下ろす時に反動をつけようと首を後ろ側に大きく反らせるクセがあった。腕の振りとともに首も振り下ろす。顔が天を向く瞬間もあった。プロ1年目は、首痛を発症していた。

 2段モーションにしてからは、足の動きに意識が集中していたのだろう。いつの間にか首の反り返りがほとんどなくなり、小谷コーチは「いける」と確信を持ったという。確かに首痛は治まったし、的を狙う視点がぶれなくなり、制球力も上がった。

 しつこく技術を追求することで、故障の抑止と制球力の2つを手にすることができた。コツを染み込ませる過程で、チェックポイントも備わっていた。少しでもおかしいと感じたら上げ始めるリズム、左足の高さと確認してほしい点を伝え、微調整していた。

 積み上げた技術が禁止となった06年当時、正直に言えば「なぜ?」の戸惑いがあった。一方で、スポーツには必ずルールがある。ルールに反することは、スポーツマンシップに反することになる。そう受け止めると「負けたくない。『三浦大輔は、これでダメになった』と言われたくない」の気持ちが強く芽生えていった。

 結局はフォームを作り上げていった地道な作業が助けとなった。感覚は簡単に忘れることはなく、いわゆる「一連の動作」の中に落とし込んで軸を作った。昨季終盤に指摘を受けた西武菊池は、直後から修正し、パフォーマンスを落とさなかった。彼も技術を積み上げ、その中でコツをつかんでいたから対応できたのだろう。意地や執念も理解でき、感じる部分があった。

 緩和されたから漠然とでなく、なぜ、何のために2段モーションを行うのか。打者のタイミングを外すために取り入れようと思うかもしれない。しかし、1球ごとに足の上げ方を変えなければタイミングを外すのは困難だし、1球ごとにフォームを変えれば、投球を安定させることも困難で、本末転倒になる。スポーツマンシップの観点から見ても、個人的には2段を取り入れるスタート地点として「どうかな?」と思う。

 最もいいボールを投げるにはどうすればいいか、とことん考える。「これだ」と思ったら、とことんやり抜く。この2点が大切ではないだろうか。(日刊スポーツ評論家)

南郷キャンプ初日にブルペン投球する西武菊池雄星(18年2月1日)
南郷キャンプ初日にブルペン投球する西武菊池雄星(18年2月1日)

2段モーションの規制緩和に対する反応


パ・リーグ


ソフトバンク 昨季サイドスローに転向し自己最多58試合に登板した嘉弥真は「2段へ変更するつもりはないけれど、ルールが変わったことで、もしかしたら(審判によっては)ボークを取られるかもと思う心配がなくなった」と、笑顔で話した。精神的な不安がなくなったことで、右足を上げて腰を回転させるフォームでしっかり投げることができている。


楽天 梨田監督は「僕は大賛成。去年、西武菊池君とか注意されていたけど。言い出したらきりがない。そこばかり厳しくするより、そこが投手の個性だと思う」と規制緩和に対して歓迎の姿勢を示した。チームでは、守護神の松井が2段モーションを解禁。第1クールからブルペンで新投法の練習に取り組んでいる。


西武 菊池を指導する土肥投手コーチは、指導の注意点として「2段モーションを何のためにやるのか」ということを強調した。「あくまで軸足に体重を乗せるための、きっかけ作りということ。8、9割の人は、2段にしなくても軸足に乗せられるが、雄星はそうじゃない。乗せるためにやったことが、2段になったのであり、打者を惑わすとかは関係ない」と話した。


オリックス ドラフト2位のK-鈴木投手(24=日立製作所)は2段モーションに取り組むことを決断した。「社会人時代から右足に体重が乗っていない感覚があったので」と規制緩和を受けて、プロ入りのタイミングで変更を決断。「シャドーはいいけど、ピッチングはまだまだ」と、キャンプを通じて新たなフォームを作り上げる。


日本ハム 3年目の田中豊はルール解釈の変更を喜んだ。昨秋キャンプで、しっくりと来た投球フォームは左足を上げた後に両腕を上に動かす形で「2段フォームを取られる可能性があると言われていた」。意識的に取り組んだわけではないが、追い風となるルール緩和に「何も気にすることなく好きに投げられるのはありがたい」と歓迎した。


ロッテ 3年目の高野は昨年の西武菊池のニュースを見て、規制緩和を予測していた。「今の現役は規制後プロ入りした人が多い。打者が対戦したことのないフォームなら試す価値がある。元々それに近いフォームだったので」と、昨年までの動きを大げさにする感覚で取り組み始めた。試行段階だが「三浦さん、岩隈さん、藤川さんと成功した投手もいる」と話し、今後審判や打者の意見を求めていく。


セ・リーグ


広島 7年目左腕の戸田が、1月から2段モーションを復活させた。プロ1年目の4月、ファームで初先発した試合中にいきなりボークと判定されたという。「その時は急に対応しないといけなくて困った。今回、制度ができてラッキー。自分のリズムで投げられる。高校時代から2段モーションがしっくりきていたので」と歓迎した。


阪神 岩貞は10勝を挙げた16年のフォームに近づける。足を1度高く上げ、その後、腰をひねりながらわずかに足を上げ直すフォーム。これまで注意を受けたことはないが「自主トレ中に試したフォーム。これまで以上に足を上げた時に間をつくることをストレスなくできる。よかった時を再現しやすい」と追い風にする。


DeNA 井納は規制緩和のニュースを見てすぐに取り掛かった。昨季途中、キャッチボールで左足を強く上げた際「軸足に体重を乗せて投げられた」と好感触をつかんだ。しかし、自然と2段モーションになってしまうため、取り入れることができなかったが、春季キャンプでは第1クールに毎日ブルペンで確認。230球投げ「しっかり立てた時はいい球が投げられる」と効果を実感している。


巨人 高橋監督は打者の対応が難しくなることを感じている。「タイミングは取りづらいと思う。僕も三浦さんは最初、合わせづらかった。特に自分自身が足を上げるバッターだったから、どこで上げていいのか、最初のころは苦労した」。2段モーション禁止前の05年までは三浦との対戦で打率2割9厘、2本塁打と苦戦。だが禁止後は3割5分6厘、4本塁打と対照的な数字を残した。



中日 近藤投手コーチは規制緩和を歓迎した。「初めて投手が優位に立てる。これまで神経を使ってやってきた。(小笠原)慎之介も1年目に言われて直させた。アマチュアで投げていたフォームでそのまま投げられない現状があった」と話す。プロ入りを機に修正した又吉も「より選択の幅が広がった。取り入れながらやっていきたい」と歓迎していた。


ヤクルト 山田哲は打者目線では大きな変化はないとの考えを示した。「タイミングを合わせることは必要になりそうですね」と、投手ごとにあらためてタイミングを計り直す必要性はあるとの見解。その上で「実際見てみないと分からないけど、そこまで大変じゃないのかなと思っています」と、慣れで解消できるとの認識でいる。