ヤクルト中村悠平捕手(27)が、地元・福井の大歓声にバットで応えた。2点を追う7回。カウント1-1からの3球目を強振し、左前へと快音を響かせた。左翼手アルモンテが打球を後逸する間に、一気に二塁へ。ご当地選手の快打に、スタンドの熱気は最高潮に達した。その後、川端の適時打とバレンティンの11号3ランで逆転に成功。だが、8回に同点に追いつかれ、延長10回途中に降雨コールドで引き分け。中村は「歓声がうれしかったです」と、まずは感謝の言葉を口にした。

 福井商出身の中村にとっては、143試合のうちの1試合、ではなかった。「こうして地元で試合をできるというのはうれしいし、特別な緊張感がある。公式戦の1試合だけど、自分にとっては特別な一戦です」。試合前の練習から報道陣の熱視線を受け、スタンドからも「ゆうへーい!」と何度も声を掛けられた。球場には両親や家族も駆けつけていた。「いろんな方が『頑張れ』と声を掛けてくれる。ありがたい。チームが勝てれば、僕は何でもいい。グラウンドで、少しでも成長した姿を表現できれば」と勝利での恩返しに燃えていた。

 それだけに、引き分けに終わった試合後は笑顔が控えめだった。「安打を打てて良かったけど、欲をいえば勝ちたかった」と、捕手として逃げ切れなかった現実を直視した。確かに、勝てなかった。だが、負けもしなかった。球場の外で帰りのバスに乗り込む際、強い雨が降り注ぐ中、ファンから中村に大歓声が飛んだ。ただ勝利を目指して懸命にプレーした中村の思いは、福井のファンにしっかり届いていた。【浜本卓也】