西武岡田雅利捕手(28)は一塁上で両拳を何度も掲げた。1-1の6回2死三塁。ソフトバンク石川から中前に決勝打を放った。フルカウントからの6球目。外に逃げるカーブに懸命にバットを伸ばした。直前に直球が2つ続いていた。そろそろカーブという捕手らしい読み、ではなかった。「前に飛ばすことだけ。なんで打てたか、よう分からんです」と執念だった。

 相棒を勝たせたかった。「あそこで打たないと十亀さんの勝ちが遠のく。食らいつきました」。炭谷、森が併用される中、スタメンマスクは十亀が先発の時に限られる。開幕当初は森が十亀と組んだが、勝てない試合が続いた。「岡田の強気のリードと相性が合う」(秋元バッテリーコーチ)と、岡田に出番が回ってきた。惜しい試合が続き「十亀さんは5敗もする投手じゃない。勝ちをつけてあげたい」と使命感に燃えた。

 天敵がいた。松田だ。試合前まで、十亀は通算37打数23安打、被打率6割2分2厘。今季も3本塁打を献上。岡田は何度も十亀と話し合った。「松田さんをどうするか。そこしか出ないぐらい話しました」。結論が落ちるシュートだった。「今、落ちる球に打ててないので」。4回の中飛はスライダーだが、直前にシュートで引かせた。6回の三ゴロはシュートを引っかけさせた。「今後に生きます」と収穫を得た。

 連敗は2でストップ。5月序盤までの首位独走から一転、苦しい試合が続く。辻監督は「岡田がよく打ってくれた。リードも良かった」とねぎらった。「もっと信頼される捕手に」と岡田。第3の男が値千金の仕事をした。【古川真弥】