阪神新井良太2軍打撃コーチ(35)が秋季キャンプ休日の5日、今季限りで現役を引退した兄、広島新井貴浩内野手(41)への感謝を言葉にした。9月に兄が現役引退を表明した直後はシーズン中ということもあって多くを語らなかったが、2日前の日本シリーズ終了を受けて思いを激白。今、伝えたい言葉は「ずっとすごい兄ちゃんでいてくれてありがとう」だった。

ホークスナインが一斉にマウンドへ駆けだす。一塁ベンチから静かにグラウンドを見つめる兄の姿を、弟はジッと目に焼きつけた。

「試合は全部見させてもらったよ。最後の方はもう『打て!』『もう1回、回ってこい!』と普通に応援していた」

11月3日。新井2軍打撃コーチは兵庫・西宮市内の自宅で、日本シリーズ第6戦・広島-ソフトバンク戦(マツダスタジアム)を見守った。兄貴浩は2点を追う8回、先頭で代打登場して遊ゴロ。そのまま一塁守備に就くも2打席目は回ってこなかった。悲願の日本一を達成できないまま現役引退。それでも弟は、最後まで大歓声と割れんばかりの拍手を浴び続けた兄の姿が誇らしかった。

「これだけ愛され惜しまれながらやめられるのは幸せなことだし、本当に尊敬する。兄貴よりすごい数字を残した選手はいると思うけど、そんな人たちに負けないぐらい引退への反響があった。それは、ドラマのような野球人生だったこともあるだろうけど、何事にも真摯(しんし)に取り組んできたからだと思う。昔は『いい人ヅラして』とかちゃかされたこともあったけど、兄貴は『ファンあってのプロ野球』と本当に考えて頑張っていた。そんな姿勢を、みんなが分かってくれたのかなと感じた」

今年7月のある休日。兵庫県内で兄と昼食の約束をした。店に向かう車中、弟は覚悟を決めて兄に問いかけた。「もしかして、やめたりしないよね」。「いや…やめるつもりよ」。兄の表情を確認した弟は「もう決めたんだな」と確信し、それ以上深掘りはしなかった。それから1カ月以上が過ぎた9月5日、兄は今季限りでの現役引退を表明した。

「もちろん客観的に見たら、まだまだできると思っていたけど、兄貴が決めたことだから。若い選手のことを考えて、5年後10年後のカープのことを考えて、身を引くべきだと決めたこと。もっと子どもの近くにいたいとも言っていたし、自分が何か言うのもね…」

ともに縦じまを身にまとった11年からの4年間、兄の偉大さが身に染みた。車のハンドルを握るだけで右肩に激痛が走る中、グラウンドに立てば平然とフルスイング-。「どれだけ批判されても、痛い、かゆいと言い訳をしない。そういうところは本当にすごいと思っていた」。時には技術面でアドバイスをもらい、時には4番の心得を教わり…。兄の優しさ、強さを誰よりも知るからこそ、決断の重さを理解できたのだろう。

「今は『お疲れさま』じゃなくて『ありがとう』と言いたいかな。感謝しているから。ずっとすごい兄ちゃんでいてくれてありがとう、とね」

弟は今、2軍打撃コーチとして鳴尾浜で指導に励む毎日。兄のように真摯な姿勢を貫き、次代を担う若虎の育成に尽力する。【佐井陽介】

◆阪神新井兄弟メモ 兄貴浩が07年オフに広島から阪神へFA移籍。中日でプレーしていた弟良太も10年オフにトレードで阪神に移籍して、同一球団に所属する兄弟選手となった。11年は兄弟そろって開幕1軍入り。5月21日のソフトバンク戦で4番三塁に貴浩、7番一塁に良太が先発出場。阪神では25年ぶりの兄弟同時先発出場を果たした。12年7月29日のDeNA戦では、同時先発の良太が4回に3ラン、貴浩も7回に2ランを放ち史上3組目の兄弟アベック弾を達成した。14年限りで貴浩が阪神を退団して広島に移籍するまで4年間一緒にプレーした。