近本が希望の光だ。阪神ドラフト1位の近本光司外野手(24=大阪ガス)が巨人戦でプロ初盗塁をマークし、今季4戦目で早くも2本目の三塁打も放った。平成最後となる東京ドームでの「伝統の一戦」は黒星発進ながら、生きのいいルーキーが躍動。昨年7月に入院して以来初めて公の場に姿を現した巨人の長嶋茂雄終身名誉監督(83)にも印象を残したはずだ。第2戦で巻き返しをかける。

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冷静に二塁ベースを蹴った近本は、グッと加速し、勢いよく三塁へ滑り込んだ。

「気持ち的には二塁打コースだと思った。センターのクッション(処理)を見て、三塁に行けるかなと」

8点ビハインドでも諦めない。6回だ。先頭で打席に立つと、山口の内角高め直球をアジャスト。中堅手・丸の頭上を越してみせた。懸命に走りながらも、心は落ち着いていた。1つでも、先の塁へ-。右足で二塁ベースを踏み、体を内側に倒して突き進んだ。開幕戦に続き、2本目の三塁打。球団新人の最多三塁打は牛若丸の異名をとった53年吉田、92年久慈の「8」で、記録更新を狙えるペースだ。長打力、走力といった持ち味を出し、この回3点を返す足場を築いた。

ただ速いだけではない。「四球は二塁打だと思っている。得点圏に進めてよかったです」。初回は四球を選ぶと、2球目にスタート。プロ初盗塁を決めた。「いつも狙っています。状況を見て、走れるところだと思った。(チームに)良い勢いをつけられたら」。

独自の体重移動が盗塁成功の秘訣(ひけつ)だ。近本は「頭」でスタートを切る。「盗塁で重要なのはスタート。足が遅くても、できるだけ早くスタートを切れればセーフになる」。上体を二塁方向に倒すリードで、投手を惑わせる。きっちりと体重を進む方向に乗せることでスムーズにスタートが切れる。「警戒されながらでもしっかりやっていきたい」。身につけた理論、走法に自信がある。その姿に矢野監督も「(足を使って)機能していってくれたら」と期待を込めた。

慣れ親しんだ東京ドームで背番号5を光らせた。「良いイメージしかなかったです」。大阪ガス時代の昨夏、都市対抗で優勝に貢献して大会MVPにあたる「橋戸賞」を獲得。スカウトの目にとまったプロの原点だ。「守備で観客を見たときに(巨人)ファンの一体感がありました」。24年間、関西で育った。ミスター長嶋茂雄氏や球場に舞うオレンジタオルは、テレビの中の世界だった。だが、今や現実のもの。地に足をつけて走る近本が、希望の光だ。【真柴健】