平成の最後に輸入された「フライボール革命」というキーワードが、日本球界にも浸透している。ホームラン増はその証左か。時代をまたいで席巻するのか。現場の深謀をルポする。

【取材・構成=久保賢吾】

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長打が出やすいとされる打球速度と角度を数値化し、メジャーリーグのパワー化をさらに加速させた「フライボール革命」と「バレルゾーン」。新たなワードをどう解釈し、日々の勝負に落とし込んでいるのだろうか。

4月18日の熊本空港。伊丹行きの飛行機を待つ間、巨人の相川バッテリーコーチに聞いた。「球速の遅いカーブは、打球速をつけるのが難しいボール。タイミングを外すボールなので、体が前に出されると、バレルゾーンの条件を満たすことが難しくなる」。確かにメジャーでも、ドジャースのカーショーを筆頭にカーブがフォーカスされ、再評価されている。

しかし、相川コーチは「真っすぐあってのカーブ。待たれていたら、危ないボール」とも加えた。対策としてカーブが有効…そんな単純な話ではない。翌日、甲子園で打撃練習を終えた丸に聞いた。5日のDeNA戦で、今永のカーブを左中間席へ運ぶ3号ソロを放っていた。丸は興味深い発言をした。「僕は、そんなに嫌なボールじゃないです。カーブは遅い球。『死に球』なので、タイミングが合えば飛んでいくのかなと思います」。

カーブの有効性と危険性。22日のジャイアンツ球場で、名伯楽の小谷巡回投手コーチが説明した。「(元国鉄)金田さんや(元巨人)江川、(元広島)北別府もカーブが良かった。でも、古田みたいにカーブを打つのが得意な打者もいるんだ」。ヤクルト宮本ヘッドコーチ、相川コーチも「カーブは好きなボールだった」と声をそろえた。

情報が積み上がっていくと、おぼろげな仮説が立った。単純にメジャーと同じ方法論を持ち込んでも「フラレボ」に対抗できるわけではない-。証明しているのが、今季4勝負けなしと絶好調の巨人山口だ。23日のヤクルト戦。強力打線を相手に8回無失点と快投した。好調の理由の1つに、独自の思考が見え隠れした。

山口 僕が思っているのは高めの直球、高めの変化球です。それも、体に近めの。低めは腕が伸びますけど、高めは少し窮屈になる。ボールとの距離が取りにくくて。打球速度は達するかもしれないけど(30度前後の)角度をつけるのは難しく、打球が上がりすぎて、フライアウトになる。

「カーブは?」と尋ねると即答した。

山口 僕はカーブというより、縦の変化が有効かなと思います。(楽天の)岸さんのようなカーブは特殊球。(菅野)智之のスライダーなんかも回転数などデータ的にもすごい数値で、バッターは打てない。

球界関係者の話を総合すると、真っすぐの場合は9度、カーブの場合は15度の角度でボールが来ることが多いという。捉えるには、その角度にバットのライン(軌道)を合わせることが求められる。高低を駆使することで相手を惑わせようともくろむ狙いは、理にかなっている。

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受ける捕手の目線では、どうなのか。WBCにも出場経験のある炭谷に聞いた。「持論ですけど」と念押しして続けた。

炭谷 メジャーと日本の打者の違いは、パワーだと思います。メジャーの打者はタイミングを大きく取らなくても、力で打球が飛ぶ。だから、タイミングを外すというより、ツーシームやカットボールでバットの芯を外そうとするのが主流なのかなと。でも、日本の打者は大きくタイミングを取って、強い打球や遠くに飛ばそうとする。だから、タイミングを外すカーブは有効なのかなと。

炭谷はカーブに活路を見ている。投げる、打つ側とのニュアンスには微妙な差がある。考えを持ち寄り、細やかなすり合わせで最適を模索するのが日本野球「らしさ」であり、ホームラン量産に対抗する特効薬を発見する道でもある。

炭谷 野球って、時代とともに変化してるじゃないですか。メジャーでは「小さく動くボールの時代」があって、今はカーブが注目され始めた。日本のプロ野球も歴史を振り返れば、真っすぐとカーブで三振をたくさん取られた方がいる。メジャーやWBCなどの影響で、日本でも小さく動くボールが増えましたけど「やっぱりいいものはいい」と。靴や服の流行…例えばナイキのエアマックスとかもそうですけど「カーブはやっぱりいいな」と。

進んで戻り、ミックスして、また巡って。「令和」の野球はどう深化するか。