ズレの極意で山賊打線を封じ込んだ。ヤクルト石川雅規投手(39)が西武相手に7回1/3を投げ、4安打2失点。1球ごとに投球プレートを一塁側、三塁側に移動しながら角度を変え、バットの芯を外して打ち取った。

後続が打ち込まれて勝ち負けはつかなかったが、交流戦歴代2位タイの通算24勝の力を示した。また、左腕と同じ秋田出身の石山泰稚投手(30)も守護神に復帰。1点差を守りきって4月30日以来のセーブを挙げた。

不測の事態にも制球はズレなかった。3回2死一、三塁。石川がマウンドで口を開けた。「え?」。サインが見えない。コンタクトレンズがズレた。のぞき込んだ捕手中村の指先がぼやけた。打者は山川。投げ間違えれば、スタンドへと放り込まれる。一度マウンドを外し、人さし指と中指で両目を押さえた。「全然見えなかった。最後にようやく見えた」と何とかサインを確認。要求されたのは外角低めへのシンカー。かすむ視界の中、寸分の狂いもなく投げ込んだ。「いいところに投げられた」という123キロで、パ本塁打王の芯をズラした。三ゴロに打ち取ると、ベンチ裏で両目のレンズを入れ替えた。

クリアな視界に戻ると、相手の目線をズラし続けた。投球ごとにプレートの立ち位置を変えた。4回1死一塁で迎えた栗山。投じた5球全てが外角低め。だが、初球は一塁側に立ってのスライダー。2球目からは三塁側に立ってカットボール、スライダー、シンカーと続け、最後はカットボールを打たせて二塁併殺打。「いろいろ考えながら試している」と多くは語らないが、捕手中村は「同じ球種でも角度が変わる。芯を外すことにつながる」とプレートの左右幅61センチを使い、球の軌道を変え続けた。

抜群の制球力があるからこそ、思考もズレない。8回1死から連打を浴びるまで、投げミスはほぼなし。山賊打線相手にも「両サイドの低めに投げるだけ」と基本を忠実に遂行した。加えて「年に1回しか対戦しないから、自分に有利だとプラスに考えてますよ」と絶対の自信がマウンド上で輝きを放つ。

白星は3番手のマクガフにズレたが「チームが勝ったので何より」と胸をなで下ろした左腕。人並み外れたズレの極意が詰まった91球だった。【島根純】