ソフトバンクが3連勝で球団史上初、92年西武以来27年ぶりの3年連続日本一に王手をかけた。「SMBC日本シリーズ2019」の第3戦。CSから采配の光る工藤公康監督(56)は早めの4回、代打の切り札・長谷川勇也外野手(34)を投入。打撃職人はこの起用に1球で応え、決勝の左犠牲フライを放った。DH制のない東京ドームでデスパイネを左翼起用すると、一時勝ち越し打を含む3打点。継投もズバリ的中した。2年連続の下克上まであと1勝だ。

CSから、幾度となく流れを引き寄せる工藤監督のタクトは第3戦も鋭かった。同点の4回1死満塁、1番川島に代打長谷川勇をコール。「取れるときにしっかり取るのが一番。思い切って勝負に行かせてもらった」。勝負どころとみればイニングは関係ない。惜しげもなく戦力を注ぎ込み、主導権を握るのが短期決戦の極意だ。

指揮官の迷いない起用に長谷川勇が応える。両足で交互にバットを蹴りながら、打席まで歩く。バットを持った右手を下げ、バットの先から手首、肩を連動させて回す。普段より早い出番でも、打席に入るルーティンは不変。巨人戸郷の初球をあっさり左翼まで運んだ。決勝犠飛で勝負あり。「ゲーム展開を予測しながら準備はしていた。シンプルに強く打ちに行って、あとはボールに聞いてくれ、という感じでした」。1分に満たない仕事を済ませ、ベンチに帰った。

長谷川勇にとって打撃とは「絵を再現するようなもの」だという。1つ1つの動きが持つ意味は言葉では説明しきれない。「練習から仕留める準備はしている。そこには自信がある」。積み重ねた練習で完成した“最高の絵”を本番でもう1度描きなおす。より最高に近づけ、再現性を高めるため。生粋の打撃職人による入念な準備が、自在流の工藤采配を支える。両者の呼吸がぴたりと合い、決勝点となった。

指揮官の信念の采配は、代打策だけではない。DH制が使えない敵地だが、第1、2戦で5打数無安打だったデスパイネを左翼で4番起用。守備に難があるのは承知の上で、リスクを背負った。実際、2回にゲレーロの飛球を捕球できずに二塁打としたが、2本の適時打で3打点となって返ってきた。

得意の継投策もさえた。1番から始まった5、6回を2番手石川が6人で抑え、流れをぶった切った。「大舞台でいいピッチングをするのは大変。救援陣はシーズン中と変わらない投球をしてくれて本当に頼もしい」。5回以降は散発2安打に封じた。

攻めの采配で、CSファーストS第2戦からの連勝は9まで伸びた。巨人に3連勝で3年連続日本一まであと1勝。「何が起こるかわからないのが日本シリーズ。今日が終わったら、明日の試合。とにかく全力で勝ちにいく」。最後まで、手を緩めるつもりはない。【山本大地】