恐怖の2番だ! 「2番左翼」で先発した阪神近本光司外野手(25)が、右翼席上段に豪快な1発をたたき込み、矢野監督の2番新構想をさらに前進させた。

7点を追う6回1死二塁。日本ハム4番手の右腕鈴木遼の甘く入った121キロスライダーを捉えた。バットに乗せた打球は、風にも乗せて右翼席上段まで飛んだ。「初球、外角いっぱいのストレートでストライクを取られた。次、来るなら内の真っすぐか変化球かなと。速い内の真っすぐを待って、甘い変化球を反応で。タイミングが合ったのでいったという感じです」。

カウント0-1からの2球目。配球を読んでコースを絞り、直球待ちでスライダーに反応した。前日8日の「2番」では、バントの構えで揺さぶって直後に適時三塁打。小技などつなぎのイメージだけでなく、得点できるパンチ力をこの日も発揮した。昨季も9本塁打をマークしたが、2番でポイントゲッターにもなれる可能性を示した形。矢野監督も「しっかり捉えたらね。1発で仕留めたのは価値がある」と大満足だ。

20年1号は、新たに取り組む“脱力打法”の産物でもあった。「最近は力を入れないで打ってみようと思って、軽く打っている。その感じが今のところ、もうちょっとで何かがつかめそうな気がしている段階。強く(振る)というよりは、スムーズにバットが出るという感覚に近いです」。自身が課題と感じる力みをなくすべく2、3日前から意識を始めたという打撃改革。完全なる脱力を理想に、手を動かしてリラックス状態を作る。昨季セ・リーグ新人最多の159安打を放った男が、貪欲に進化を求めているというから頼もしい。

「その先に何かあるんじゃないかなと」。この日の本塁打は「全然できていない」とさらなる高みを明かし、今後の練習でもっと体に染みこませる。脱力打法をモノにすれば、2番の恐怖度も桁外れになりそうだ。【奥田隼人】

<強打の2番打者>

◆簑田浩二(阪急)80年には全31本塁打中30本を2番で。同年31犠打も決めており、球界唯一の「30本塁打&30犠打」達成。

◆小笠原道大(日本ハム)迫力満点のフルスイングは相手投手の脅威。99~00年に、先発2番打者として計50本塁打166打点を挙げた。

◆リグス(ヤクルト)06年にスタメン2番で放った37本塁打はNPB最多として残る。「バントをしない2番打者」として人気を集めた。

◆坂本勇人(巨人)昨季「2番・遊撃」で放った34本塁打はプロ野球史上最多。優勝に貢献しMVPを獲得した。

◆阪神の主な2番打者 中軸につなぐタイプが大半。85年は弘田澄男、北村照文らが交代で務め、バース、掛布、岡田に好機を拡大してきた。98年に桧山進次郎が開幕2番に入ったケースはあるが、03年には盗塁王の赤星憲広、05年には巧打の鳥谷敬と、技で勝負する選手が担ってきた。スタメンの2番で2桁本塁打を放った選手は71年藤田平の10本塁打までさかのぼる。近本が長打力を備えた2番に座れば、球団史に例を見ない存在になる。