#野球には夢がある-。日刊スポーツ評論家、和田一浩氏(47)の「強打者論」第2回のテーマは、「強打者」になるために必要な技術。バッティング理論の土台をベテラン遊軍・小島信行記者に、じっくり分かりやすく解説してくれました。指導者の方は必見です!
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小島記者 前回(5月19日付紙面)は、「強打者」とは『打線の「盾」になるような打者』と、具体例を挙げて解説してもらいました。長打力があって対戦相手に「怖さ」を感じさせ、なおかつ簡単に三振しないといった「いやらしさ」を兼ね備えているという条件を挙げられました。
和田 そうやって短く説明すると、なんか偉そうですねぇ(苦笑い)。簡単に三振しないというより、簡単に打ち取られない、とした方がいいでしょう。「ここに投げときゃ大丈夫」みたいな、大きな弱点がないことも条件になりますから。
小島 分かりやすく「強打者」の目安になる数字を挙げるとすると、どれくらいですか?
和田 打率3割以上、出塁率4割以上で、長打率は最低でも5割はほしいですね。ホームグラウンドでは、どんな球場でもシーズン20本以上は打つ能力が必要ですね。
小島 その数字は大変ですね(苦笑い)。それだけ打てば、間違いなく「強打者」になるでしょう。
和田 でもシーズンで2人ぐらいはいるんじゃないですか。毎年数えているわけではないけど。
小島 では「強打者」になるために必要なものは何ですか?
和田 やっぱり技術とパワーの両方が必要です。
小島 パワーについては、野球は体重制限がない競技ですから、スカウティングでも体の大きさが重要視されますもんね。では技術について、もっと詳しく説明してもらえますか。
和田 技術とパワーって、切り離して考えると言葉で説明するのは難しいですねぇ。どれぐらいのパワーがあるかによって、必要な技術は変わってくる。例えば、パワーのある外国人は大きく反動をつける必要がない。あまり足を上げなくても強い打球が打てますよね。もし当てるだけならバットも捕手側に寝かせ気味にして、バスターのような感じのスイングでいい。でもそれじゃ、ほとんどのバッターは強い打球が打てない。
小島 メジャーでシーズン70発のマグワイアは、バットを寝かせ気味にして反動を使わずに打っていましたね。恐ろしいぐらいのパワーでしたが、ステロイドの使用を告白しました。
和田 これは間違った考え方ですが、違反してまでもパワーをつけたい、体を大きくしたいと思ってやっている選手はたくさんいますよね。言い換えれば、それぐらいパワーがつけば簡単な打ち方で強打者になれるってこと。絶対にまねしたらダメですけど。
小島 薬物は体がおかしくなるし、危険です。
和田 体を大きくしたいなら、しっかり飯を食って、ウエートトレーニングをやってください!
小島 では、ある程度のパワーがある場合に、強打者になるために必要な技術とは?
和田 まず、ボールを強くたたくには、バットのヘッドを内側から出すスイング軌道が必要です。そのためには、後ろの腕の肘をおヘソの辺りまで入れて打ちにいく。そうやってスイングしていって、グリップエンドから投手側に引っ張っていければ、体の中というか、正面でインパクトできます。いろいろなバッティング理論がありますが、ここの部分は絶対に必要な部分です。もう少し詳しく言うと、バットが内側から出ていくと、打ちにいく中でボールも見極められます。ヘッドが外側から入ると、ボールだと思ってもバットが止まらないでしょ? 内側から出していければ、打ちにいく中でボールを見極める時間ができる。ボール球に自然にバットが止まるようになれば、打率も上がりますから、良いことずくめです。あとは「割り」ですね。
小島 「割り」という言葉は、バッティングの連続写真を使って技術解説をするときも頻繁に使いますよね。分かりやすく説明していただけますか。
和田 うまく伝えられるか分かりませんが、簡単に言うと「割り」は「前の足を上げてから投手方向に踏み出していく時に、バットを持つ両手の位置は弓矢の弓を引くように、足とは逆方向に動かしていく動作」です。例えは悪いですが、強く殴るためには1度、後ろ側に拳を引きますよね。矢も遠くまで放とうとすれば、弓を大きく引かなければいけない。その時、下半身が一緒に同じ動きをすると、上半身と下半身の間に“ねじれ”ができない。だからバッティングも、前の足を出していくタイミングで、両腕を捕手側に引いて上半身と下半身に“ねじれ”を作ります。そうすると打ちにいく時に強い力が出るようになります。もう1つの利点として「間」もできます。
小島 「割り」ができればねじれができて、強くボールがたたける。野球の技術を話すときには「間」という言葉も頻繁に出てきます。具体的にどういう効果がありますか?
和田 例えば「割り」の技術がないバッターは、足を上げて踏み込んでいく時に、足と手が同時に出てきますよね。そうなるとボールを見極める「間」がなくなるんです。下半身が出ていって打ちにいっても、上半身は軸足にためた力と同じように、我慢できないといけません。この我慢できた瞬間が「間」です。体をひねって力をため、下半身で打ちにいく体勢を作りながら、ボールを見極める「間」を作る。「見る」から「打つ」じゃ、間に合わない。これはよくあるダメなパターン。「打つ」体勢を作りながら「見る」ための「間」が作れればベストです。
小島 難しいですね。
和田 プロでもできているバッターは少ない。できているバッターでも、調子が悪くなると、理想の「割り」が作れなくなります。
小島 メジャー762発のボンズや、3年連続40発をマークしたオルティスは、ぴょこっとグリップが上がってから打ちにいきますよね。ソフトバンクのデスパイネもそう。
和田 そうですね。いいバッターは必ず「割り」があります。グリップを動かさず、残すような形で「割り」を作るタイプもいる。
小島 巨人の坂本やヤクルトの山田(哲)がそのタイプですか?
和田 そうですね。ただ個人的にいうなら、打ちにいく時の体勢をトップと言いますが、その時のグリップの位置は、打ちにいく動作の中で一番高い位置になるのがいいです。思い切りビンタをする時、1度手を高い位置にもっていった方が強くたたけるでしょ? それと一緒です。打ちにいく時の「間」は、ちょっとでもあればいいんです。真っすぐを待って変化球に対応する時、少しでも「間」があれば、その「間」を長くすることで対応できるようになります。手と足が同時に出て「間」がないと、その時間を伸ばせない。
小島 1を2や3にはできても、0は0のままってことですね。
和田 そうです。バットを内側から出す技術と「割り」は、高いレベルを目指す選手は身につけられるようにしてほしいですね。難しいけど、強い打球を打ち、ミート率を上げるためには必要ですから。
小島 アベレージヒッターもパワーヒッターも、「強打者」になるために必要な技術ですね。では次回は、レベルを上げるための練習方法や考え方、応用技術を教えてください。
<打率3割、出塁率4割、長打率5割以上、本拠地20発以上>
◆和田氏の「強打者の目安」をクリアした選手 過去10年で5人(7度)だけ。唯一複数回記録したのが山田哲(ヤクルト)で、いずれもトリプルスリー達成の年にクリアした。過去10年はすべてセ・リーグの選手で、パ・リーグでは05年松中(ソフトバンク)が最後。同年は打率3割1分5厘、出塁率4割1分2厘、長打率6割6分3厘で、本拠地で24本塁打だった。