新型コロナウイルス感染拡大の影響により、指導者も真価が問われている。4月に全国中学校体育大会(全中)の史上初の中止が決まり、中学生アスリートにとって「最高峰の舞台」が消滅した。軟式野球のカリスマ監督で、松島中(宮城)の猿橋善宏教諭(58)は、今後の向き合い方が生徒の将来を大きく左右すると力説する。

全中の中止決定を受けて猿橋教諭は「子どもたちが無気力感や悲しさ、痛みを覚えるくらいだったら『最初から夢や希望、目標を持っても無駄なこと』と思わないか」と心配した。3年生にとっては最後の晴れ舞台だっただけに、心の傷は深い。各都道府県の中体連が状況を見ながら、代替案を検討していく方向性を示しているが、猿橋教諭は「代わりの大会を開いたから最後の花道ってことにはならない。そんな簡単だとは思わない。痛みがほんの少し和らぐだけであって、解決というわけではない」と、よりベターな方向性に向けて知恵を絞っている。

一方で、この経験を通じて、今後の糧になる教育を目指していく。「(生徒たちが)自分の成長に結びつけて、プラスに変えられるかが大切。それをどういうプログラムで取り組ませてあげたらいいのか。手間暇をかけて考えなくてはいけない。それをやっていくことで、指導者もこれからの指導の中で、大事にしなければならないことをあらためて見つけられるかもしれない。野球をうまくさせるよりも相当難しい」。未曽有の事態にベテラン指導者も手探りの中でも、生徒との向き合い方を模索している。

教員としても一同で奮闘している。6月からようやく授業が再開されたが、自宅待機中には学習サポートのため、オリジナルテキストを作成。担当教科によっては授業が週3、4回あり、1時間ごとに授業内容を用紙にまとめ、自学自習可能な環境を整えることに尽力した。1学年平均30~40人いる生徒の各自宅に、担任は9教科分のオリジナルテキストを届けた。英語科の猿橋教諭は「1時間の授業を文字に起こすのは大変。どの子にも分かりやすくしないといけないので、いろいろ考えながら作ると最初は8時間かかりました。今の教師たちは、何もしていない日はないです」と平時よりも多忙な日々を送った。

すべては「生徒ファースト」に立っての行動だ。「新学期に入って、担任の先生も代わっているし、新しい環境にも慣れていない。この期間中だけでも、学習サポートをメインに考えながら、教科担任の先生方とコミュニケーションを取って、安心できる環境作りを目指しました」。宮城県内では4月28日を最後に新規感染者は出ていない。部活動も再開しており、生徒たちが元気に登校する日常が戻りつつある。【佐藤究】