オリックス伏見寅威捕手(30)がスターティングオーダーに戻ってきた。日本ハム戦に「7番捕手」で先発出場。昨年6月9日ヤクルト戦で「7番捕手」でスタメン出場して以来の先発出場となった。

壮絶なリハビリ生活を乗り越えた。昨年6月18日巨人戦(東京ドーム)。1点を追う9回2死二塁で強振した際に左アキレス腱(けん)断裂した。自力で立ち上がれなかった。「アキレス腱(けん)を切って、キャッチャーに復帰した人はいないって聞いて…。本当に、先は見えなかったんです。野球、またできるのかな…って。毎日、不安でした」。2軍で実戦復帰した際に、しみじみと語った。

大阪・舞洲の球団施設でリハビリ生活を送る日々を過ごした。「みんなはグラウンドで元気いっぱい練習してるけど、自分は一人で室内で練習。そりゃ、寂しかったですよね」。患部の状態を確認しながら、できる練習を懸命に行う。どんなに自分が苦しくても、笑顔でナインとは接する。「野球できるのが、うらやましいなって思った日もありました」。順調に回復を待ち、思い切り走れる喜びをかみしめた。

流した汗はうそをつかない。マシンを相手に、バットを振る日々だった。昨オフは大阪・舞洲の室内練習場で快音を響かせた。「やっと、マシンは打てるようになったから。やっぱり、打たなくちゃ(感覚を)忘れるからね」。誰もいない室内からは、マシンの稼働音と伏見のスイング音だけが響く。緑の人工芝は、伏見の打ったボールで、だんだん白くなった。

周囲のサポートにも感謝を忘れない。「関西の人っで温かいなぁって思った瞬間があるんです」。妻に車いすを押してもらい、買い物に行ったときだ。「兄ちゃん、大丈夫か? どこケガしたんや? って。声をかけてくれるのは全然知らない人ですよ? そのときは距離の近い人だなぁって感じだったんですけど、後から考えたら元気つけてくれてたんだなぁと」。北海道出身、プロ8年目。関西にもなじんできた。

リハビリ期間、一人で黙々と練習するのが寂しかった。ベンチでも積極的にコミュニケーションを取る。「対話力」の大切さにも気づかされた瞬間だった。

この日は先発山崎福が初回に2四球を与えた。失点は許さなかったが、すかさず山崎福の元に足を運んだ。常々、口にする。「投手の良いところを生かすのがキャッチャーの仕事」。大ケガを乗り越えた扇の要が、職場に戻った。【真柴健】