昨年6月に左膝を骨折した日本ハム上沢直之投手(26)が、復帰3度目のマウンドで413日ぶり勝利を挙げた。28日オリックス7回戦(札幌ドーム)は、術後最長の7回を投げ1失点。本拠地ファンの前のヒーローインタビューでは「いつかこういう日が来ると信じて頑張ってきました」と、感慨深げだった。

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苦難の道を乗り越え、ようやくたどり着いた。上沢が、待望の白星をつかみ取った。「辛かったんですけど、いつかこういう日が来ると信じて頑張ってきました」。左膝骨折の悲劇に屈することなく、昨年6月11日広島戦以来、413日ぶり勝利を挙げた。選手生命さえ危ぶまれた大ケガ。復活への歩み同様、粘り強く相手打線に立ち向かった。復帰後最長7回7安打1失点、最多106球の熱投だった。

新フォームで完全復活を示した。左膝を深く曲げて力を入れることが難しくなったため、よりリリースポイントを前にして「強いフォーム」を意識。4回無死一、二塁でジョーンズに中前適時打を浴び1点差に迫られたが、顔中に悔しさをあらわにしてから、吹っ切った。「ああいう球数を投げていた時に、いかに粘れるかすごい大事だなと思っていた」。直球で攻め、テンポよく後続を断ち、ピンチから抜け出した。

感謝の思いが励みになった。久々のウイニングボールは、妻と昨年11月に誕生した第1子の長女にプレゼント。「子どものおもちゃになると思います」と父の顔をのぞかせた。試合前には、栗山監督から「背負わないでくれ」と声を掛けられたが、その重みが強さになった。「今日の1勝は家族と支えてくれた人に献げたいなと思います」。指揮官は瞳をうるませ「本当の意味の強さが、身につき始めている」と成長した姿で帰ってきたことを喜んだ。

「もう野球が出来ないかもしれないと思った」。絶望から、かすかな光を見つけるところから始まった復活ロード。「これからはリハビリ明けの選手としてではなくて、チームをしっかり引っ張っていかなきゃいけない選手としてしっかりやっていきます」。精神的にも強さが増した足取りで、再びプロ野球人生を歩き始めた。【田中彩友美】

▽日本ハム木田投手コーチ(復活勝利の上沢に)「今日は本当に丁寧に投げてくれた。(次回登板は)状態を確認しながら決めていきたい。前回はアクシデントがあったので間を空けたけど、これからは徐々に間をあまり空けずに投げていけるんじゃないかなと思う」

▽日本ハム宇佐見(上沢とバッテリーを組み)「ボール先行になっても、ファウルでカウントが取れたりできた。しっかり、ストライクゾーン内で打たせるボールを投げてくれる。計算がしやすかったので、最少失点につながったと思う」

<日本ハム上沢復活の歩み>

▽19年6月18日 DeNA戦の6回、ソトの打球が左膝を直撃し緊急搬送

▽同19日 都内病院で左膝膝蓋(しつがい)骨骨折と診断され整復固定の手術を受ける

▽同30日 都内の病院を退院。装具を付けて歩行している状態

▽8月6日 近況報告のため札幌ドームを訪問。「1日でも早く戻りたい」

▽10月31日 キャッチボールを再開

▽11月29日 1000万円減の年俸6000万円プラス出来高払いで契約更改(推定)

▽20年1月19日 平地約30メートルの距離で捕手を座らせ投球練習

▽2月4日 2軍の沖縄・国頭キャンプでブルペン投球再開。「普通にできることが楽しい」

▽3月27日 故障後初めてフリー打撃に登板。打者相手は288日ぶり。30球投げて安打性は1。「ようやく野球選手っぽくなってきた」

▽5月21日 ブルペンで打者を立たせて70球。「今は80%くらいには来ているかな」

▽6月2日 ロッテとの練習試合で350日ぶり実戦登板。先発で2回49球4安打2失点。「疲れました。集中して投げるのは久しぶり」

▽同12日 巨人との練習試合で2番手登板。3回2安打2失点

▽同21日 イースタン・リーグ開幕の巨人戦に先発、5回1安打1失点に抑えた。「意外に早かったような、長かったような」

▽同30日 ソフトバンク戦(札幌ドーム)で378日ぶり1軍マウンド復帰。5回2安打1失点好投も勝敗つかず

<日本ハム最近の復帰勝利>

◆斎藤佑樹(14年7月31日ロッテ戦) 12年の日本シリーズ登板後、右肩関節唇損傷。保存治療を選択し、同戦で785日ぶり勝利

◆浦野博司(17年5月5日オリックス戦) 14年春に右肩のインピンジメント症候群を発症。右肩後方部分の骨が壊死したが、蘇生し復帰。695日ぶり勝利

◆中村勝(17年6月1日DeNA戦) 右肘痛に悩み、16年9月に自身の血液から分離した血小板血漿(けっしょう)を注射するPRP療法を行う。648日ぶり勝利

◆杉浦稔大(18年7月21日ソフトバンク戦) ヤクルト時代に右肩痛を発症。17年7月のトレード移籍後も治療に専念し、初登板となったこの日、679日ぶりの勝利

◆マルティネス(20年7月8日オリックス戦) 右前腕の痛みなどで19年シーズンは登板なし。リハビリ期間で新球スパイクカーブをマスターして復帰、668日ぶり勝利