夢は正夢になった。楽天ドラフト6位の滝中瞭太投手(25)がプロ4試合目の登板で初勝利を挙げた。

5回1死までパーフェクト投球。9回に適時打を許し完封こそ逃したが、山賊打線を8回2/3、5安打2失点に抑え、前回9月27日の対戦で3回途中5失点でKOされた雪辱も果たした。社会人時代には指名漏れを経験も、母から送られた1本の日本酒が背中を押してくれた。今年で26歳のオールドルーキー。大きな夢への1歩を踏み出した。

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最高の美酒まであと1球、足りなかった。完封をかけた9回2死二、三塁。メヒアに対しフルカウント。「うりゃ!」。投じたカーブは悲鳴とともに三塁線を破る。完封目前で2失点。降板を告げられた滝中はベンチへ戻る際に一瞬、顔をしかめた。「うれしいですが、投げきれなかった悔しさもあります」。堂々たるプロ1勝だが、心地よい後悔も残した。

両親の願いが、プロへの扉を押し開けた。社会人2年目の18年。ドラフト会議で朗報は届かず「2年で区切り。野球をやめようと思いました」。数日後。母明美さんから「お酒送ったから」と酒好きの息子へ1本の電話が入った。届いたのは福井・鯖江産の日本酒「梵」。金色のラベルには「夢は正夢 Dreams Come True」との文字。「親からは『続けるかはあんたに任せるよ』と言われたんですが、こんなの送られたら野球やめられないですよ」。“夢”をかなえた時に開けよう。固く誓った。

翌19年。封を開ける時が来た。ドラフト会議当日ではなく、エースとしてホンダ鈴鹿を4年連続の都市対抗に導いた夜。「達成感がすごくて、ここがピークだなと…」。同期3人を部屋に呼び、5合の日本酒をあっさり空けた。肝心のドラフト当日は、寮近くの居酒屋でビールを飲み干した。

あれから1年。龍谷大1年時に受けた右肘トミー・ジョン手術のリハビリの一環で磨いたカーブを武器に、山賊打線を惑わせた。この試合最初のピンチとなった5点リードの5回。2死一、三塁から外崎をカーブでボテボテの投ゴロに仕留めた。最速は145キロ。カットボール、ツーシームで左右に、フォーク、チェンジアップ、そしてカーブで緩急と上下を広く使い、的を絞らせなかった。

小、中学時代は控え投手。中学時代は地元で消防士を目指し、職場体験に足も運んだ。両親、指導者、チームメート…。関わった全ての人々のおかげで、記念球を握る。「うちの両親は(ボールを)どっちの棺おけに入れるのか、けんかになっちゃう。1個ずつ入れられるようにもう1つ欲しいです」。新たに浮かんだ“夢”も正夢にする。【桑原幹久】

◆滝中瞭太(たきなか・りょうた)1994年(平6)12月20日、滋賀県高島市生まれ。小学3年から野球を始める。高島高では2年秋からエース。龍谷大では関西6大学リーグで通算16勝。ホンダ鈴鹿に進み、日本選手権に2度、都市対抗に3度出場。19年ドラフト6位で楽天入団。今年9月19日ソフトバンク戦でプロ初登板。今季推定年俸900万円。180センチ、93キロ。右投げ右打ち。

▽楽天三木監督(滝中に) 言うことなしです。最後までいきたかったと思いますけど、次もありますし。1勝からまたスタートを切ってもらいたい。

▽楽天田中和(1回に適時打、6回に8号ソロ。同学年の滝中を援護) 滝中が必死で投げているので、1点でも多くと思って打席に入りました。

▽楽天小深田(5回に適時二塁打を放ち、同期入団の滝中を援護) 同期の先輩なので僕もうれしいです。滝中さんの部屋はすごく整理整頓されているので見習いたい。