さりげない行動が妙に目に留まった。6-6で引き分けた5日の阪神戦。

巨人小林誠司捕手(32)は一打サヨナラの9回1死二塁のピンチで、阪神島田がファウルを打った後、バットをソッと拾って、手渡した。学生野球などで多く見られる光景だが、プロで、それも緊迫した場面で配球も考えながらの中で実行した姿が強く印象に残った。

1死一、三塁とピンチが広がった場面では、したたかさと冷静さを感じた。阪神梅野が打席に入る直前、小林はダイヤモンドに1歩2歩足を踏み入れ、バントのジェスチャーを見せながら、一、二塁方向を指さし、指示の声を出した。内野陣にスクイズを意識させるとともに、梅野や阪神ベンチにも警戒心を植え付けたように映った。

8月上旬、夏の甲子園開幕直後に大会史に残る07年夏の佐賀北-広陵の決勝戦の話を聞いた。「がばい旋風」と注目された一戦。マスクをかぶった小林は、逆転満塁弾での衝撃的な敗戦を経験した。逆転された8回を「スタンドが揺れて。あんな経験はあの1回だけ」と言ったが、窮地で見せた2つの行動に経験値の高さを感じた。

阪神戦から7日後の12日の広島戦、決勝の今季1号ソロを放ち、チームの連敗を6で止めた。今季44打席目での値千金の1発。ヒーローインタビューでは「手応えはあったんですけど、僕なんで、ファウルになるかなと思ったんですけど」と自虐的に話したが、広い視野と経験からの準備、思い切りの良さが結果に表れた。【遊軍=久保賢吾】