「寒いから鍋にしましょう。『ひろ志』がいいですね」

「鍋か。珍しいね」

「お酒をやめてるんです。リョウスケと一緒に行きます」

英気を養って宮崎キャンプの休日を締め、第2クールに臨もう。穏やかな口ぶりから、東野峻の気持ちをくんだ。

9年前の2月だから、東野峻は25歳。宮国椋丞は19歳。当時の巨人投手陣は、内海哲也を中心に後輩の面倒見が良かった。

西橘通り、赤玉駐車場の筋にたたずむ小料理店「ひろ志」。甘口しょうゆと地魚で「霧島」を味わう…のではなく、ウーロン茶でもつ鍋を囲んだ。東野が語りかけた。

「リョウスケ、チャンスを逃さないでいこう。オレは以前、紅白戦とオープン戦を防御率ゼロでいった。それでも開幕ローテに残れなかった。打撃投手でも遠慮するな。全部アピール、抑えにいこう」

宮国は打撃投手の登板を控えていた。崩した足を正座に整え「分かりました」と目を見開いた。

翌朝一番、球場の入り口でバッタリ宮国に会った。「全部アピール、ですよね。自分の投球をします」。坂本勇人から2球続けて見逃しストライクを奪い「手が出なかった。僕も頑張らないと」と言わせた。

29歳になった宮国は、戦力外通告と育成契約を経て、横浜スタジアムのマウンドに立った。9月7日の移籍初登板。坂本を封じ4年ぶりに勝った。東野はDeNAのスコアラーに。あの時と同じように「巨人相手だ。頑張れ」と押した。よき縁は節目で力をくれる。【宮下敬至】