阪神は広島相手に同一カード3連敗を喫したが、シーズン最終盤にラッキーボーイが出現した。1点を追う4回に、小野寺暖外野手(23)が球団の育成ドラフト指名選手で初アーチとなるプロ1号を放った。ウエスタン・リーグで首位打者など2冠を獲得した苦労人がチームに勢いを与える。首位ヤクルトも敗れ、1ゲーム差のまま。戦いはまだまだこれからだ。

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無我夢中で走った。小野寺にスタンドインを教えてくれたのは、1万1409人のメガホン音だった。「打った瞬間は入ったのか分からなかった。ファンの皆さんが喜んでくれていたので分かりましたし、甲子園で今まで経験したことない歓声を受けることができて、本当にうれしかった」。

1点ビハインドの4回先頭。左腕玉村のシュートを完璧に捉え、中堅左のスタンドへ突き刺した。一時同点のプロ1号ソロ。大商大から19年育成ドラフト1位で入団し、今年4月19日に支配下契約を勝ち取った苦労人。育成ドラフト指名選手で本塁打を放ったのは球団史上初の快挙だ。

今春の1軍キャンプで、体を張ったプレーとギャグでチームを何度も明るくした。ハングリーで熱い男。そんなスタイルは大商大時代から変わらない。ドラフトを控えた19年秋。リーグ戦も大詰めの状況で、小野寺は大学近くの居酒屋で涙を流して仲間に言った。

「プロ野球選手になるねん! 俺、絶対なる」。人目もはばからず、大真面目に泣いた。1学年下で正捕手を務めた岡沢智基(現ホンダ鈴鹿、23)は「とにかく熱い人。ここっていう場面では絶対打ってました」と証言する。1軍再昇格し、即「7番右翼」でスタメン。熱いハートがあるから1発回答できる。

今季5度目の1軍昇格。降格するたびに平田2軍監督から「(最短の)10日で上がるぞ」とハッパをかけられた。「モチベーションを落とすことなく絶対に上がってやるという気持ちで取り組めた」。2軍ではリーグ制覇に貢献し、打率&出塁率の2冠。もう鳴尾浜には戻らない。

「このままレギュラーを奪って、最後まで出続けて、何としても1位になることだけを考えてやっていきたいです」。広島に同一カード3連敗を喫した夜。逆転Vへ、ラッキーボーイになる可能性を秘めた男が現れた。【中野椋】

◆小野寺暖(おのでら・だん)1998年(平10)3月17日生まれ、奈良市出身。京都翔英では甲子園出場なし。大商大では関西6大学でMVPを2度獲得。19年育成ドラフト1位で阪神に入団。今年4月に支配下登録され、4月24日に1軍デビュー。ウエスタン・リーグでは、首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得。183センチ、79キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸420万円。

▼阪神小野寺がプロ初本塁打。小野寺は19年育成ドラフト1位で、今季開幕後に支配下選手となった。阪神の育成ドラフト出身選手では、初の本塁打となった。これまで阪神が育成ドラフトで指名した野手は10人(ほかに投手5人)いるが、支配下選手となったのは小野寺を含め4人、1軍出場したのは08年育成1位の野原祐也、09年同2位の田上健一の2人で、野原は通算22試合、田上は123試合に出場したが本塁打はなかった。小野寺が阪神の育成ドラフトに新たな歴史を刻んだ。

▽阪神矢野監督(小野寺について)「素晴らしいホームランだった。育成から2軍でしっかり結果を残して上がってきている選手なんで、もっともっと高みを目指してやってもらえたらと思います」