奇跡の逆転Vへ価値ある引き分けだ。2位阪神が敵地広島戦で0-1の7回2死走者なしから坂本誠志郎捕手(27)の同点打で追いつき、執念ドローに持ち込んだ。

右太もも裏痛の近本が欠場し、本来の4番大山もスタメンを外れる緊急事態の中、好投の森下相手に一丸でワンチャンスをモノにした。勝てば最高だったが、停滞気味の首位ヤクルトがこの日も敗れ、優勝マジックは3のまま。阪神が土俵際から26日にも逆転優勝する状況に持ち込んだ。

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気温15度。冷え切ったマツダスタジアムを坂本が熱くした。1点を負う7回2死一、三塁。広島森下の116球目、150キロ直球を捉えた。気迫が乗り移ったかのように、打球は二塁手菊池涼のジャンプの上を越えた。「追い越さないといけなかったかもしれないんですけど、追いつきたいという思いで打ちました」。

執念で作ったチャンスだった。2死、それもカウント0-2からロハスが際どいコースを選んで四球。2三振だった佐藤輝は詰まりながら左前打でつなぎ、助っ人はヘッドスライディングで三塁を陥れた。「ピッチャーが粘って、こういうゲームを作れたので」。投手陣の踏ん張り、仲間の思いに応える同点打だった。

緊急事態を執念で乗り切った。右太もも裏に強い張りを抱える近本が、新人時代の19年4月10日以来、927日ぶりに欠場。1番島田、3番糸原、5番にはプロ3年目で初めて木浪を据えた。背中の張りで大山もスタメンを外れ、優勝争いの佳境で苦肉のオーダーを組まざるを得なかった。

だが、これが手負いの虎の優勝への意地と執念か。好投森下に沈黙してきた打線が、ワンチャンスを逃さなかった。矢野監督は「もちろん(代打を)どうしようかとよぎったけどね。アイツに任せていいんじゃないかっていう、それに応えてくれてうれしいよね」と背番号12をたたえた。

デーゲームで首位ヤクルトが負けたため、阪神の引き分けで優勝マジックは減らず3で停滞。ゲーム差はなくなり24、26日に阪神連勝、ヤクルト連敗なら逆転Vのところまできた。前向きな引き分けか? の問いに指揮官は「俺もそう思っているよ」とうなずいた。8日にマジック11が点灯後、ヤクルト4勝6敗2分け対し、阪神は6勝2敗3分け。息切れ気味のツバメに執念で食らいついている。

泣いても笑っても残り2戦。矢野監督は「明日も全員で何とかする気持ちを結果につなげたい」と熱く言った。坂本も「モノにしたいという思いは、強ければ強いほど近づくと思う。9回が終わる時に1点でいいから勝っていて、スアちゃんが抑えてくれたらそれがいい」と力を込めた。虎はまだ死なず-。価値あるドローを糧に、残り2戦を総力で勝つ。【中野椋】