DeNA牧秀悟内野手(23)が16日、2年目の野手としてはプロ野球史上最高となる推定年俸7000万円で契約更改した。牧は今季、打率3割1分4厘だったが、打率3割は98年の坪井智哉(阪神)と高橋由伸(巨人)以来、23年ぶり12人目だった。坪井氏はくしくも今季、DeNAの打撃コーチとして、牧を指導していた。坪井コーチ(現在は退任)から見た、牧の打撃とは。(後編)【取材、構成=斎藤直樹】

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-牧の打撃は教科書通りなのか

坪井 逆方向ですね。後ろで見ていたらすごく分かるんです。外を引っ張ることがあまりないし、外はきっちり右中間に打つ。甘内(あまうち)に来たら、しっかり左中間に打つ。広角に打てるのが彼の特長。外を打つためにどうしようとか言うのがあまりない。来たところにポンと手を出せば、そっちに飛ぶよという感覚だと思う。教科書通りといえば教科書通りだし。たぶん本人は意識していない。技術的には難しいが、縦に振れる。意識しないで縦振りができる選手。

-縦振りとは

坪井 軌道の話。バットのヘッドが返らない。センターの、投手の方に入っていける軌道。天性だったりする。変化球が頭にあり過ぎると、軌道が狂ったりする。彼は軌道が狂わなかった。

-投手ではよく腕が縦振り、横振りなどというが

坪井 そうですね。体が縦に回るか横に回るか。打者もある。だから低めを拾って、コンッとライト前に打ったりする。ああいうのは横振りの選手はできない。打者のタイプにもよりますが、それは1回も言わなかった。天然物なので、勝手にできる。そこまで来るのには苦労したと思います。なかなかできないです。

-牧の性格は

坪井 ずぶとい。いい意味で天然だし、あまり深く考えてない。たぶん。いい意味でシンプル。打撃フォームもそうだし、思考がシンプルなんだと思う。体力的に夏場にガタガタッとちょっと落ちた。打率が落ちた時。体もごついし、よくトレーニングする。僕は1年目、しんど過ぎてトレーニングなんかできなかった。彼は試合後もウエートトレーニングしている。痛いところがあっても痛いと言わないし。簡単に言ってしまうと、新人離れしている。

-ウエートトレを試合後にするとは強い

坪井 体が強い。筋力も。あの(太い)足ですよ。

-牧で一番驚いたことは何か

坪井 物おじしないタイプ。チームカラーも、もちろんあるんでしょうが。僕が入った時なんか、味方がいなかったですよ。時代かもしれないけど。「なんだ、この新人」みたいな感じで。気持ち良くはできなかった。気持ち良くやらせる雰囲気をつくる先輩たちがいて、それに乗っかる牧がいて。「一発芸やれよ」と言えば平気でやる。メンタリティーというか、ずぶとさですよね。新人が堂々としょうもないギャグをやる。笑わなかったら「続きまして」ともう1個やる。大したものです。しょうもないけど(笑い)。

-そういうメンタルはプレーでも大事なのか

坪井 大事ですよ。とんでもないエラーした後に、とんでもない打撃をするじゃないですか。メンタルが弱かったら、メンタルが落ちたら打撃に影響したりする。逆もある。チャンスで三振が2打席続いたら、守備でエラーしたりするじゃないですか。それがない。切り替えも上手だし。例えば、しょうもないミスをした後に、いいところでタイムリーを打ったら、僕の感覚からしたらホッとする。「取り返してやろう」という感覚なんだけど。牧は基本ニコニコしているじゃないですか。あれが僕はすごいなと思う。僕は投手に迷惑かけた後に自分が打ってもニコニコできない。あの愛されキャラは、そういうところじゃないですか。悪く言う人はいないですもん。

-来年も楽しみ

坪井 そりゃあ楽しみです。僕はシーズン前に大体、この選手が今年どのぐらい打つかと当てられるんです。牧は(打率)2割8分ぐらいのイメージだった。十分じゃないですか。(本塁打)15本ぐらい。3割でしょ。マイナスはあるんです。「2割8分は打つだろうな」が、2割6分ぐらいはいるんです。あんまり超えてくる人はいないです。それが2分以上も超えて、ホームランも超えられたら「俺どんだけ見る目ないねん」ていう話ですよ。それだけ裏切られたのは久しぶり。

僕は1年目、野球しながら笑っていた記憶がない。しんど過ぎて。きつかったな。体力的にも精神的にも。もちろん阪神という違いもある。弱かったしね、当時。ニコニコできるあの余裕がすごいなと。僕は苦しみの中で野球をやっていた。当時はベイスターズが強かったからね。

(おわり)