日刊スポーツはオリックスの25年ぶりリーグ優勝を記念し、「火曜B」と題したスペシャル企画を1月末までの毎週火曜日にお届けします。第6回は沢村賞に輝いたオリックス山本由伸投手(23)が投じる直球の秘密に迫ります。注目したのは「握り」の部分。セオリーとは異なるボールの持ち方が、異次元の直球を生み出しているのかもしれません。【取材・構成=真柴健】

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18勝5敗、206奪三振で防御率は1・39…。最速157キロの直球に加えて「バレない変化球」と表現する150キロ超のカットボールやフォークを持ち合わせる。沢村賞に輝いたエース右腕の秘密は「握り」にあった。

「本格的に投手になった頃から、全く変えてませんね。途中で『ボールの持ち方が違うぞ』と言われたことも何度かありますけど、僕は今の握りがずっとしっくり来ていたんです」

ポイントは「縫い目」にあった。一般的には人さし指よりも中指の方が長いため写真(1)のように持つ。リリースの瞬間、指が縫い目にかかるため回転数が増える傾向にある。だが、山本は写真(2)のように握る。

「投げる時に、あまり気にならない方が良い。『こう持つんだよ』と丁寧に教えてもらったときも、自分の投げやすい方が良いかなと思っていました」

野球を始めた小学1年では主に捕手や二塁手で、投手は兼任だった。捕球後すぐに投げる野手出身のため、当時はあまり深く考えていなかったそうだ。「運は良いですよね。最初から投手だったら、この握りをしていないかもしれないですし」。球界を代表するエースになっても、17年間、直球の握りを変えていない。

指先でボールに力を伝える際に、他の投手とは違うスピンが生じる。そこに体全体を使ったフォームで威力が増す。「考えれば考えるほど奥が深いですよね。ストライクゾーンに力強い球を投げる。それが原点だと思います」。打者が思い描く投球軌道とは違った軌道で到達する。そう考えると、直球ながら変化球なのかもしれない。

◆オリックス山本由伸の球種 

カットボール プロ1年目の17年オフに「他の変化球を生かすために必要」と感じて習得。直球と全く同じ握りで「曲げようと思わない投げ方」。スライダーの握りから、最後は直球に寄せていくイメージ。球速は150キロを超える。

スライダー ボールのやや右側を握る。鋭く曲げるために腕を強く振る。基本的に直球と同じ投げ方。球速は140キロ台後半。

カーブ 人生で初めて習得した変化球。野球を始めた小学1年では主に捕手や二塁手で投手は兼任。肩や肘の負担を考慮し、禁止された「禁断のカーブ」だった。17年間、握りも投げ方も変えてない。球速は120キロ台後半。

フォーク 本格的に投手を始めた宮崎・都城高1年の14年に紅白戦の左打席で“打者目線”で覚えた。「1歳上の先輩が『ツーシーム』と投げていたけれど、その落差がすごかった」とまねした。改良を重ねてカウントを取るフォークと、三振を狙うフォークの2種類がある。ボールを人さし指を中指で挟まず縫い目に添えるように握り、球速は140キロ台後半。

シュート 大リーガーのランディ・ジョンソンが握りを紹介していたテレビ番組を参考に19年から持ち球にした。軌道を落としたい場合は、投じる瞬間に「押すイメージ」で投げる。

ツーシーム 動かすよりも「揺らす」。「打者が直球と勘違いする」のが狙い。力を込めて投じるため、球速は150キロを超える。