阪神ドラフト3位ルーキー桐敷拓馬投手(22=新潟医療福祉大)が快投できる秘密はどこにあるのか。日刊スポーツ評論家の中西清起氏(59)が、好評企画「解体新書」で投球フォームを分析した。新人ながら矢野監督がキャンプ実戦前に「通用する」と太鼓判。予告通りに結果を出すと金村投手コーチも「1イニングではもったいない」と先発への方針転換を明かした。85年の阪神日本一守護神で元投手コーチの中西氏が投球の極意に迫った。【取材・構成=松井清員】

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桐敷は新人ながら完成度の高い投手だ。オーソドックスな上手投げだが、特に左打者の内角に強い真っすぐを投げ込めるのは強みで、右打者も差し込んでいる。プラス、切れ味鋭いスライダー。身長は178センチと大きい方ではないが、DeNAの浜口のように打者が力感を感じる投手だろう。

まず投げ始めの(1)から(2)に移る姿勢が素晴らしい。左足でしっかり立ち頭の先まで一直線。軸ができているからここで十分パワーをためられる。(3)から(4)への体重移動もスムーズ。なかなか正面を向かない(7)の胸の張りも抜群で、打者は球の出どころが見えづらい。

力むと無駄が出て力が伝わりにくいが余計な力みもない。(8)は支点になる左肩の位置、力点になる左肘の位置、作用点になる左の指先までの3要素が完璧。(9)のリリースも右肩、左肩、左の指先までが斜めの一直線にきれいにそろっているので、上からたたけて力のあるボールを投げられる。

(10)~(12)のフィニッシュも上半身から下半身、右足への体重移動が申し分ない。特に(12)が分かりやすいが、右のつま先より頭の位置が前に出ている。体の前で大きく左腕を振れている証拠で、ためた全体重を右足1本に乗せてどっしり立つ、最高のパワーの伝え方だ。大学時代に最速150キロ出していたのもうなずける。

ほとんど欠点がないフォームだが、あえて課題を挙げるなら(5)~(6)だろう。右膝が正面の打者方向を向くのが少し早い。ほんの一瞬の0コンマ何秒だけど、一塁側に向ける時間を長く遅らせることで、より下半身が安定する。下半身が安定すると、もっと球持ちも良くなってリリースポイントも安定し、制球力が増す。

キャンプの実戦を見て感じたのは、先発でも救援でもどちらでもいけるということ。先発なら昨年の伊藤将に匹敵する力があるのではと感じる。大学で完全試合をやるのは、それだけの力がないとできない。リリーフではもったいないし先発で育ててほしい素材だ。今は真っすぐとスライダーが軸だが、フォークやチェンジアップを完全にモノにすれば、投球の幅が広がって白星を稼げる。楽しみなルーキーが入ってきた。

◆桐敷拓馬(きりしき・たくま)1999年(平11)6月20日生まれ、埼玉県出身。小1で野球を始め、本庄東(埼玉)では1年夏からベンチ入りし、同年秋からエース。甲子園出場なし。新潟医療福祉大では1年秋にリーグ戦初登板。21年ドラフト3位で阪神入団。指名直後の10月16日の平成国際大戦で、関甲新学生リーグ初の完全試合を達成。背番号47。今季推定年俸1000万円。178センチ、90キロ。左投げ左打ち。