阪神糸井嘉男外野手(41)の今季限りでの現役引退が13日、発表された。

   ◇   ◇   ◇

糸井は2年前の20年秋、人知れず「骨(こつ)切り」を宣告されている。

歩くだけで右膝に激痛が走る。何度水を抜いても翌日にはたまる。中には「変形性膝関節症」と診断する医師もおり、ある時、「もう骨を切るしかない」と絶望的な言葉も聞かされた。

「骨切り」とは膝内の骨にメスを入れる手術。決断すれば、選手生命の終わりが限りなく近づく。いやが応でも引退の2文字がチラついた秋、それでも懸命にあらがったから今がある。

「そんなはずない。まだできるはずや」

わらにもすがる思いで「骨切り」以外の策を探し抜き、元広島アスレチックトレーナーの大教大・橋本恒特任助教に師事。「筋肉バランスが崩れているだけ。正しい位置に戻せば大丈夫」。その言葉を信じて当時39歳の肉体をいじめ抜いた3カ月間を抜きに、現役最後の2年間は語れない。

過酷を極めたプールトレなどで横隔膜を強化。上半身と下半身をつなぐ腸腰筋のズレを修正し、太もも裏も鍛え抜いた。すると、21年シーズンを迎えた頃には、激痛はウソのように消え去った。

橋本氏は以前、こう振り返っていた。

「僕たちは、本人が怖いと思う感情だけはコントロールできない。でも、糸井さんは絶対にトレーニングから逃げませんでした」

「超人」。それは、人の限界を超えるほど努力できる、という意味も含まれているのかもしれない。

「もうホンマにできひんぐらいの体になったこともあった。それでもやっぱり野球が大好きですし、常に満足することなく、また明日、また明日と言い聞かせてやってきました」

すべてを出し切ったからだろうか。引退会見。笑顔がまぶしく映った。【遊軍=佐井陽介】