阪神が「2022 JERA クライマックスシリーズ セ」のファーストステージ突破を決めた。1勝1敗で迎えたDeNAとの第3戦は、1点リードの9回に1死満塁の大ピンチ。ここで矢野燿大監督(53)が今季初めてマウンドに出向いて、湯浅京己投手(23)にゲキを飛ばし、新守護神は終戦寸前の併殺斬りで劇的勝利を決めた。阪神は12日からのファイナルステージ(神宮)でセ王者のヤクルトに挑み、下克上での日本シリーズ進出を目指す。

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矢野監督が迷いなくベンチを飛び出した。マウンドに輪ができる。「ドラマつくるなあ」。そう切り出すと、さらに語気を強めた。 「思い切り楽しんで。この場面、お前にかけてるから。どんな結果でもいいから思い切っていってくれ」 就任4年で3度目、今季初めてマウンドでのゲキ。熱い言葉を受けた、湯浅は笑っていた。1点リードの9回1死満塁。逆転されれば矢野阪神の4年間が終わる絶体絶命の場面で、だ。

直後。代打藤田を初球152キロで二ゴロに仕留めた。「二-捕-一」のホームゲッツー。マウンドで跳びはねると今度は歓喜の輪ができた。「本当に楽しみながら、打者に向かっていくだけでした」。8回2死二塁で西純を救援し、CS2度目のイニングまたぎに成功。指揮官に背中を押され、魂の23球を投げ切った。

昨年までの1軍登板はわずか3試合。それでも潜在能力を買う矢野監督が今春のキャンプから期待を込め、「8回の男」に抜てき。最優秀中継ぎ投手賞を獲得する大ブレークで応えた。3度の腰椎分離症を乗り越えたプロ4年目。その裏で、痛打を浴びた夜もある。

「お前は成長しているところなんだから」「思い切りやったらいい」

打たれても、指揮官はいつも前向きな言葉で鼓舞してくれた。「やっぱりまだまだ矢野さんと野球がしたいので、しっかり抑えられてよかったです」。どんな時でも諦めない。楽しむことを忘れない「矢野野球」を体現する男が、ここ一番で究極の恩返しを決めた。

試合後、矢野監督の目は充血していた。「みんなでつないで、必死にやってくれたんですから、こんなにうれしいことはない」。そして視線を上げ、続けた。

「甲子園に帰って日本シリーズは、ファンの皆さんに見せたいし僕も経験したい。開幕の苦しいところからここまで来たというのを含めて諦めずにやってくれたドラマ。まだドラマは終わらないと思うんで、全員で夢と理想を追って最高のドラマを起こしてきます」

開幕9連敗、最大借金16、史上最低勝率0割6分3厘…。どん底のどん底からはい上がり、3年ぶりCSファイナルステージ進出を決めた。次の目標は下克上での日本シリーズ進出。熱いラストファイトはまだまだ終わらない。【中野椋】

▼1Sの阪神は先発投手が合計13回1/3を投げて3失点に対し、救援投手は合計12回2/3で無失点。公式戦でリーグ1位の防御率2.39を記録した救援陣が、CSでは相手に1点も与えなかった。湯浅は<1>戦で1回1/3、<3>戦でも1回1/3を投げて2セーブを挙げた。同一年のプレーオフ、CSでイニングをまたいだセーブを2度以上記録したのは、79年山口(近鉄)が<1>戦で1回2/3、<2>戦で1回2/3の2セーブ、07年岩瀬(中日)が1S<2>戦で1回2/3、2S<1>戦で1回2/3、<2>戦で1回1/3、<3>戦で1回1/3の4セーブ、10年山口(巨人)が1S<1>戦で1回1/3、<2>戦で1回2/3の2セーブを記録して以来、12年ぶり4人目だ。

〇…横浜スタジアムに駆け付けた虎党が大騒ぎしすぎ、場内アナウンス係から「声を出しての応援はおやめください」とのメッセージが発せられた。反撃の口火となった4回の佐藤輝の本塁打や6回の同点、逆転シーンで左翼席を中心に「六甲おろし」を大合唱。注意のアナウンスとともにビジョンにも注意書きが出された。新型コロナの感染拡大を防ぐため、現在、球場では大声を出しての観戦が禁止。私設応援団も「声援は心の中で」と呼びかけているが、劇的な展開で歯止めが利かなかったようだ。

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