「侍を語ろう」はカジュアルウエアチェーン「ユニクロ」を世界に展開するファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長(73)と、侍ジャパン栗山英樹監督(61)による“世界一対談”。後編は、上司のあり方から、代表入りが発表されたエンゼルス大谷翔平投手(28)へと話題が移った。【取材・構成=古川真弥】

   ◇   ◇   ◇

柳井会長兼社長(以下、柳) 僕は一番ダメな上司は「物分かりのいい上司」だと言ってるんですよ。

栗山監督(以下、栗) 確かに「はい、はい」と言う上司ですね。

柳 そういうのではなく「こういうところはいいけど、ここを直さないといけないよ」とか、野球でも「そういう考え方じゃなくて、こういう考え方で過ごさないと練習の成果が出ないよ」とか。人生の先輩として基本的なことを教えられる監督が、一番いい監督だと思いますけどね。

栗 なるほど。物分かりのいい上司。これ、最悪なんですね(笑い)。

柳 最悪(笑い)。選手でも、素直すぎる選手ってダメでしょう? 自分がないから。

栗 ダメですね。大谷翔平なんかは入ってきた時から、反発するわけではないですが、納得いかないことは「え?」って顔はしてましたね。

柳 彼は今の日本人が全部、模範にすべきですよね。僕がすごいなあと思うのは、前人未到のことをやっている。二刀流という自分の強みが絶対、世界中で通用するように。練習も、すごい、やってるでしょう?

栗 やります。もう異常なほど、やります。練習しか考えてないですね。

柳 サイ・ヤング賞を取りたいとか、そういう目標があるんじゃないですか?

栗 あると思います。やはり(指導者が)目標さえ、はっきりさせてやれば、行きやすくなる。

柳 だから「お前、それ行けるじゃないか」と一押しをしてやったら、人は行く確率が、すごく上がると思う。みんなね、誰かに声をかけてもらいたいと思ってるんですよ。物分かりのいい上司は、部下が「やりたい」と言うのに「いいよ、いいよ」と言うだけ。でも、本当の目標というのは、そういうことじゃないでしょう。「これを本業にしたらどうだ」とか、「ひょっとしたら、こういう目標があるんじゃないか」とか言ってやったら、すごく、選手のプラスになるんじゃないかと思いますけどね。

栗 なるほど。社長は、自分のイメージに「世界」が湧き出したのは結構、早い段階だったんですか? 服を作って世界で勝負しようと思ったのは。

柳 いや、最初の頃は30店舗で年商30億円ぐらい、多分、それぐらいで終わるんじゃないかと、漠然と考えてました。自分の現実をよく知ってるんで。ただし、日常の努力はバンバンやってたんですけど、いつまでたっても全然、進歩しないんですよ。というのも、行く先を決めてなかった。

栗 ただ、がむしゃらにやってるだけで。

柳 ええ。でも、大谷選手も、ダルビッシュ選手も、だいたい行く先を決めてるでしょう?

栗 決めてます。もう、大谷は入ってきた時から「5年後、アメリカ」って言ってたんで。

柳 ははは。すごいですね。高校生で。だから、アメリカに行っても成功したんですよ。アメリカに行ったら、こうしようと考えていた。で、全部、それをノートに書くでしょう。成功するには、スポーツ選手でも、事業経営やってる人でも、言葉にしないと伝わらないでしょう。

栗 確かに、彼は言葉にします。ということは、社長は途中で行き場所を見つけなきゃと、気が付いたということですか?

柳 そうですね。なんで、この会社は成長しないのかと思ったら、行く先を決めてないというね(笑い)。でも、みんなそうなんですよ。不思議なことに、日本では自分で行く先を決めない。みんなレールに乗ってるわけですよ。でも、レールなんかないでしょう。人生に。

栗 そうですね。でも、僕はダメな選手だったんです。誰よりも努力はしてるけど、行き場所が。毎日、頑張ったで終わっちゃってた感じがします。

柳 でも、監督が天職だったんじゃないですか? 監督になるためのことを、選手時代にやっていた。一流の選手が一流の監督にはならないでしょう? 決して才能は1つじゃなくて。

栗 そう言っていただけると、うれしいです。僕は選手としての能力はなかったけど、この選手はすごいという感じ方は意外とあるかもしれないと、勝手に思ってるところがあるんです。

柳 すごく大事なことだと思う。長所以外に生かせることはない。短所のこと言ったら切りがないです。だから、大谷君みたいに全部長所。あり得ないですよ、あんなの(笑い)。どんどん、話が進みますね。記者さんも、どうぞ質問を。

-もし、大谷選手のような何でもできる社員がいたら、どう起用しますか

柳 僕の次のCEO(最高経営責任者)でしょう、それ(笑い)。決まり切ってます。

栗 ははは。今日は、すごい元気、出ました! 気合、入れていきます。ありがとうございます。

柳 いや、いや、僕も元気、出ました。(おわり)

◆栗山英樹(くりやま・ひでき)1961年(昭36)4月26日、東京都生まれ。創価高-東京学芸大。83年ドラフト外でヤクルト入団。プロ1年目秋に両打ち転向、3年目に打率3割。89年に外野手でゴールデングラブ賞。通算494試合、336安打、7本塁打、67打点、打率2割7分9厘。90年に引退後はスポーツキャスター、大学教授などを務め、12年から日本ハム監督。12年リーグ優勝、16年日本一。通算10シーズンで1410試合684勝672敗54分け、勝率5割4厘。21年11月、日本代表監督就任。現役時は174センチ、72キロ。右投げ両打ち。

◆柳井正(やない・ただし)1949年(昭24)2月7日、山口県生まれ。71年3月、早大政治経済学部卒業後、ジャスコ(現イオン)勤務を経て、72年に小郡商事(現ファーストリテイリング)入社。84年、「ユニクロ」1号店を広島市に出店、日本最大規模のカジュアルウエアチェーンへと発展させる。05年11月、ファーストリテイリングを持ち株会社へと移行し、傘下にユニクロ、ジーユー、セオリーなどを持つアパレル製造小売企業グループとなる。ユニクロはアジア大洋州、欧州、北米で2300以上の店舗を展開。

【ユニクロ柳井会長×侍栗山監督】世界一になるには何が必要? 計画と準備、それと運も/対談1