異色の“世界一対談”が実現した。侍ジャパン栗山英樹監督(61)が、代表のオフィシャルスーツパートナー「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの東京・有明本部を訪問。同社の柳井正代表取締役会長兼社長(73)と語り合った。アパレル業界と野球界。フィールドは異なるが、ともに世界一を目指す2人による「侍を語ろう」。WBCの日本の開幕戦(3月9日、中国戦)まで50日の日にお届けする。【取材・構成=古川真弥】

   ◇   ◇   ◇

始まる前から、栗山監督は興奮を隠さなかった。「今日はいっぱい聞きたい」。定刻より早く現れた柳井会長兼社長と固く握手。濃密な時間が始まった。

-◇-◇-

栗山監督(以下、栗) 社長は「まだ世界一じゃない」(※注1)と言うかも知れませんが、ここまで世界と勝負できる社長に、世界一になるには何が必要かを教えていただきたくて。

柳井会長兼社長(以下、柳) まず世界一になりたいと、全員が本当に思わないとダメですね。僕は社員全員に言うんです。「人生って有限でしょう」と。僕は洋服屋。服屋という道に志して、行き着けるところまで行きたい。野球という道に志したわけですよね。今の日本の閉塞(へいそく)感をWBCで突き破ってもらいたい。「たとえ勝てなくても」と考えずに「絶対、勝つんだ」と思うことが絶対必要。それと、運も必要ですね。

栗 「お金もうけだけ考える服を人は買わない」と(著書に)書かれていて、なるほどなと。運には、やり尽くすという生きざまが出ますか?

柳 僕は出ると思います。野球も「偶然優勝」はないでしょう。全部、計画と準備。事業も一緒ですよ。

栗 僕は「今年はダメかな」とちょっとでも心に浮かんだ瞬間やられると思ってやってきたんですが、社長の思いは言葉にして社員の皆さんに、がんがん伝えるべきなんですか?

柳 伝えるべきだと思う。ほとんどの人が監督の方を向いてますよね?

栗 見てますね。

柳 監督が絶対勝ちたいとオーラみたいなものを出すと、選手もやらなきゃいけないと思うんじゃないですか。相乗効果ですよ。

栗 ユニクロは業界のやり方を変えました(※注2)が、できるかできないかではなく、やるかやらないかだったんですか?

柳 そういう感じだと思う。ほとんどの人が、できないことから考える。野球もそうでしょう? 弱いチームに限って。だから、うちは「絶対、運も良くて勝てる」と思っている。

栗 ユニクロが全国へ展開していく中で「ユニクロの悪口言って100万円」ですか(※注3)。反対した人もいるわけですよね?

柳 反対する人がいても、やりますよね。お客さんの評価が全て。社員がどう思おうと関係ないですよ。

栗 すごいなと思います。今回、メンバーを決める時に僕だけがいいと思ってて、コーチは全員反対みたいなの、あるんですね。

柳 全体が反対する理由を聞かないといけないですね。納得できるものなら、自分の考えの方が間違っているかも知れないですよね。でも、その選手の特長を自分だったら見られるかも知れない。だから、そういうことを客観的にご覧になったらいいんじゃないかと思いますけどね。

栗 話を聞き、もう1回、自分で考え直していく。

柳 それと、自分はこう思うということを何回も言う。1回言っても、人は100%聞きません。聞いたふり、してる(笑い)。

栗 社長が言われてもですか!?

-◇-◇-

栗山監督の質問は尽きなかった。話題は、あの選手へと移った。(2へつづく)

【ユニクロ柳井会長×侍栗山監督】大谷翔平は日本人の模範に 行き先決め言葉にして動く/対談2

 

※注1 ファーストリテイリングは22年8月期決算で2兆3011億円の売上高を達成。アパレル小売り会社ではインディテックス、H&Mに次ぐ世界3位。

※注2 ユニクロは一般的な委託販売に代わり、企画開発、製造、販売まで自社で行う方法を導入。高品質低価格を実現した。

※注3 95年10月に全国紙や週刊誌に同広告を掲載。集まった1万通弱のほとんどが品質へのクレームだった。

◆栗山英樹(くりやま・ひでき)1961年(昭36)4月26日、東京都生まれ。創価高-東京学芸大。83年ドラフト外でヤクルト入団。プロ1年目秋に両打ち転向、3年目に打率3割。89年に外野手でゴールデングラブ賞。通算494試合、336安打、7本塁打、67打点、打率2割7分9厘。90年に引退後はスポーツキャスター、大学教授などを務め、12年から日本ハム監督。12年リーグ優勝、16年日本一。通算10シーズンで1410試合684勝672敗54分け、勝率5割4厘。21年11月、日本代表監督就任。現役時は174センチ、72キロ。右投げ両打ち。

◆柳井正(やない・ただし)1949年(昭24)2月7日、山口県生まれ。71年3月、早大政治経済学部卒業後、ジャスコ(現イオン)勤務を経て、72年に小郡商事(現ファーストリテイリング)入社。84年、「ユニクロ」1号店を広島市に出店、日本最大規模のカジュアルウエアチェーンへと発展させる。05年11月、ファーストリテイリングを持ち株会社へと移行し、傘下にユニクロ、ジーユー、セオリーなどを持つアパレル製造小売企業グループとなる。ユニクロはアジア大洋州、欧州、北米で2300以上の店舗を展開。