巨人の育成ドラフト1位ルーキー松井颯投手(22)が、鮮烈なデビュー戦勝利を飾った。3回までパーフェクトに抑えるなど、5回を2安打無失点の快投。最速151キロの直球とシンカーなど多彩な変化球を操り、「新勝利の方程式」につないだ。15日に支配下登録を勝ち取ったばかりだが、育成ドラフト出身の新人が初登板初勝利を挙げるのは、史上2人目の快挙。明星大では理工学部で学んだ異色の理系右腕の勝利で、チームは5連勝を収めて貯金生活に戻り、44日ぶりのAクラスにも浮上した。

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6日前まで育成だった男が、お立ち台から絶景を眺めた。松井は東京ドームの大歓声、無数のフラッシュを浴び「最高でーす!」と絶叫した。18年大竹(ソフトバンク、現阪神)以来2人目で、球団史上初となる育成入団1年目での初登板初勝利の喜びをかみしめた。

心臓はバクバクだった。初回、投球練習初球は豪快にバックネットに突き刺す大暴投も「緊張がほぐれました」と逆に冷静になれた。試合開始からは別人。中日岡林、大島のタイトルホルダーを150キロの直球で押し込むと、終盤は変化球を駆使した。左打者には宝刀シンカーを抜き、5回2安打無失点。勝利投手の権利を得て後続に託した。

明星大の4年間で球速は13キロアップ、最速154キロになった。同期生に159キロ右腕の谷井一郎さん(22)がいた。「谷井との出会いで野球人生が変わったと思います」。ブルペンではその剛速球の隣で投げるたびに、力の差を痛感。軸足の使い方や、体重移動の感覚を聞いて吸収した。

理工学部・総合理工学科で物理学を専攻した異色の経歴を持つ。卒論では投球動画を題材に研究。球の回転数や回転軸を突き詰めた。柔らかい股関節を生かし、投球時の歩幅は6・75足分と緻密に計算。「自分の限界を知りたい。それに向かってどこまでいけるのかというのが、自分のモチベーション」。花咲徳栄では控え投手で、高校で野球を辞めるつもりだった。甲子園では背番号15を背負い、1試合だけ登板。自己最速タイ141キロを出し、野球への思いが再燃したのも限界への挑戦だった。

5回を投げ終え、ベンチに戻ると、阿部ヘッドコーチから“宿題”を課された。「朝起きてからの出来事、自分がどう感じたのか。しっかりノートに書き留めておけよ」。経験を糧にし次へつなげる。「次もその次も勝てるようにやっていきたい」。育成からのサクセスストーリー。計算ではなく切り開いてみせる。【上田悠太】

◆松井颯(まつい・はやて)2000年(平12)9月14日、東京都生まれ。花咲徳栄時代はエース野村佑希(現日本ハム)と同学年。背番号15で18年夏の甲子園2回戦の横浜戦に救援登板した。首都大学リーグ2部の明星大を経て、22年育成ドラフト1位で巨人入団。イースタン・リーグでは7試合2勝1敗、31回1/3を投げ防御率2・01。今月15日に支配下選手登録された。178センチ、83キロ。右投げ右打ち。

▼ルーキー松井が5回を無失点に抑え初登板を白星で飾った。巨人の新人で初登板初勝利は19年4月4日高橋以来14人目。そのうち失点0は41年8月21日広瀬、69年4月14日吉村に次いで3人目だが、吉村はリリーフで記録。先発で無失点の白星は1リーグ時代の41年広瀬以来となり、2リーグ制後は球団史上初めてだ。また、育成ドラフト出身の初登板初勝利は17年4月19日篠原(巨人=3年目)18年8月1日大竹(ソフトバンク=1年目)21年4月1日本前(ロッテ=2年目)に次いで4人目。新人では大竹以来2人目になる。

▽巨人原監督(初登板初勝利の松井に)「持てる力を出せたと思いますね。ボールそのものは変化球も真っすぐも良いものを持っているので、1つ不安があるならば制球力かなと思っていましたけど、見事なピッチングをしてくれました」

▽巨人ウォーカー(2回1死一塁、中日高橋宏から左翼バルコニー席への特大の先制4号2ラン)「甘く来た球は積極的にいこうと思っていました。松井に先制点をプレゼントできてよかったよ」

▽日本ハム野村(松井と花咲徳栄で同級生)「育成で指名されて支配下になって本当にすごい。後から(プロに)入っても先に入っても上とか下とかないと思うので、負けないように頑張りたいと思います」

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