100年先も野球を存続させるために-。阪神嶌村聡球団本部長(56)が日刊スポーツのインタビューで野球振興に懸ける球団の本気度を明かした。チームは日本野球機構(NPB)全体の動きに呼応する形で、独立リーグ球団との連携を今まで以上に加速させている。虎はなぜ育成ドラフトで高校生を指名しなくなったのか? 前編ではあまり知られていない球団方針から野球振興に懸ける情熱を深掘りした。【取材・構成=佐井陽介、磯綾乃】

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阪神はもう13年間、育成ドラフトで高校生を指名していない。今のところ10年育成1位阪口哲也(市和歌山)、同2位島本浩也(京都・福知山成美)、同3位穴田真規(大阪・箕面東)が最後だ。11年から23年までの間に10選手を育成指名しているが、すべて大学生か独立リーグ選手。実は理由があるのだと、嶌村球団本部長は明かす。

「もちろん意味はあります。まず各球団それぞれに考え方とやり方があって良しあしではない、というのが大前提であり、育成選手であってもプロの世界に飛び込む意識が高い選手、また、その必要性が生じる選手も存在すること自体を否定するものではありません。その上で我々は野球界全体の競技者人口が減ってきている中、高校生が大学野球や社会人野球、独立リーグに順にステップアップすることが非常に大事だと考えています。日本における野球の最終目的地であるプロ野球に入ってくる経路は既存のアマ野球、独立リーグの存在に目を向けながら、という考え方ですね。この考え方は間違っているかもしれませんが、現状の我々の方針としています」

自球団だけの利益を追求すれば、少しでも光る素材を青田買いしてふるい落とす形も取れる。ただ、育成指名した高校生が支配下登録を勝ち取る可能性の高低も考えた上で、阪神は「高校生の指名の基本は支配下で」という方針を共有している。

「大学生や独立リーグの選手に関しては、高いレベルへの挑戦という形になる。一方で高校生の場合はよりハイレベルのアマ野球、独立リーグで人格形成しながらスキルアップした方がより良い選択肢になるかもしれない。我々は甘いかもしれないけど、親御さんの立場も考えてしまう。育成で指名してしまうより、もしお誘いがあるのであれば大学および社会人、独立リーグに人格形成、技術力アップを託したいと考えています。独立リーグのチームや地方の大学には人材確保という問題もありますからね。そこからでも決して遅くはないので」

いかに虎が得をするか、だけでなく、アマチュア球界や独立リーグの発展にも目を向ける。考え方の根底には、野球振興に懸ける情熱が存在する。

嶌村氏は球団本部長であると同時に連盟担当でもあり、NPBで理事、実行委員の立場も持つ。アマチュア球界を代表する団体・全日本野球協会(BFJ)とNPBとで作る「日本野球協議会」でも野球人口の減少が度々議題に挙がる中、以前にも増して危機感を持つようになったのだという。

「日本の少子化という問題がある中で、野球競技者の減少比率が世代別人口の減少比率を上回ってしまっている。中でも小中学校の軟式野球の競技者が10年前から激減している。その減少比率を押し戻さないといけないというのがNPB全体、日本球界全体の課題。そのために12球団が何をすべきかという話の中の1つとして出てきたのが、22年11月のオーナー会議で12球団とNPBが承認した『ファーム・リーグの拡大を図るNPBビジョン』です」

ファーム拡大構想の主点は2つある。プロ野球の発展と野球振興。野球の裾野をさらに広げるためにNPBがファーム・リーグ戦への新参加球団を公募し、最終的にBCリーグ・新潟がイースタンに、ハヤテ223(静岡)がウエスタンに、それぞれ24年から参加することが承認された。

今年からはNPB12球団の1、2軍とファーム新参加2球団で計14の都道府県に本拠地が置かれる。一方でこれらのチームだけではまだ現時点で33府県に空白地域が生まれるのも事実。そこで地域に根付く独立リーグ球団との連携が欠かせない、というわけだ。

プロ野球界は今、ピラミッド型のグランドデザインを掲げている。1層目にNPB12球団の1軍、2層目にNPB2軍12チームとファーム新参加2チーム、3層目にNPB3軍と独立リーグチーム、クラブチーム。野球を振興する上で3層目の発展が欠かせないこともあり、すでにNPBは日本独立リーグ野球機構(IPBL)と「独立リーグ連絡協議会」を発足し、会議を重ねている。独立リーグとの連携を各球団が模索する中、阪神は早くも積極的な動きを加速させている。

「もっと独立リーグのチームと野球振興で連携すれば、各地域で競技者もファンの方々も増えるのではないか、と。そんな考えの一環としてタイガースは今回、岡崎太一くんを石川球団に派遣したり、徳島球団とタイガースのコラボで野球教室を展開したわけです」

(後編に続く)

◆嶌村聡(しまむら・さとし)1967年(昭42)9月3日生まれ、大阪府出身。関西学院大では野球部に所属し、91年阪神電気鉄道に入社。94年から阪神タイガースに出向し、広報部に配属。99年に野村克也監督の監督付広報に就任。02年からは編成部でスカウトディレクターを務めた。06年に野村氏が楽天監督に就任すると退団し、4年間監督付広報を務めた。10年に阪神に復帰し、編成部次長などを歴任。21年4月から球団本部長を務める。

◆日本独立リーグ野球機構(IPBL) 14年9月に四国ILとルートインBCリーグの合同機構として設立。以降、各リーグとチームを会員に迎え、独立リーグの代表団体として窓口となっている。現在の加盟リーグ、チームは5リーグ20球団。四国ILは愛媛、香川、高知、徳島。ルートインBCリーグは福島、群馬、信濃、茨城、栃木、埼玉武蔵、神奈川。九州アジアLは宮崎、火の国、大分、北九州下関。北海道フロンティアLは石狩、美唄、士別。日本海Lは富山、石川。

◆ファーム拡大構想 プロ野球12球団とNPBが22年11月24日、オーナー会議で「野球の裾野を広げるために ~ファーム・リーグの拡大を図るNPBビジョン~」を承認した。既存12球団のフランチャイズ以外の府県を本拠地とする球団を24年からイースタン、ウエスタンで増やす構想。BCリーグ・栃木を運営するエイジェック、BCリーグ・新潟、ハヤテグループによるハヤテ223(静岡)が新規参加希望を申請し、23年11月22日のオーナー会議で新潟とハヤテの新参加が承認された。2球団の正式名称は「オイシックス新潟アルビレックスBC」「くふうハヤテベンチャーズ静岡」となった。

NPB12球団1、2軍+2軍新参加2球団の本拠地

 

【セ・リーグ】

阪神…兵庫・西宮市(1、2軍、2軍は25年3月から兵庫・尼崎市)

広島…広島市(1軍)、山口・岩国市(2軍)

DeNA…神奈川・横浜市(1軍)、神奈川・横須賀市(2軍)

巨人…東京・文京区(1軍)、神奈川県・川崎市(2軍)

ヤクルト…東京・新宿区(1軍)、埼玉・戸田市(2軍、2軍は27年春から茨城・守谷市)

中日…愛知・名古屋市(1、2軍)

 

【パ・リーグ】

オリックス…大阪市(1、2軍)

ロッテ…千葉市(1軍)、埼玉・さいたま市(2軍)

ソフトバンク…福岡市(1軍)、福岡・筑後市(2軍)

楽天…宮城・仙台市(1、2軍)

西武…埼玉・所沢市(1、2軍)

日本ハム…北海道・北広島市(1軍)、千葉・鎌ケ谷市(2軍)

 

【ファーム新参加】

オイシックス新潟…新潟市

くふうハヤテ…静岡市