<阪神2-0ヤクルト>◇16日◇甲子園

 執念の勝利だ!

 阪神がヤクルトに2-0で競り勝った。新井貴浩内野手(31)が腰痛の影響で欠場。変更をよぎなくされた打線は、ヤクルト村中に苦しめられた。しかし1点リードの8回、安打で出塁した“アニキ”金本知憲外野手(40)がすかさず盗塁。1死満塁と広がったチャンスで代打桧山進次郎外野手(39)の三ゴロの間に2点目と執念の攻めで大きな追加点をもぎ取った。守り勝った阪神に18日にも優勝マジックが点灯する。

 アニキはやっぱり偉大だった。1点リードで迎えた8回裏。奇襲スチールが再び試合を動かした。先頭打者の金本が右前にクリーンヒット。続く葛城はバントの構え。2球目に相手のスキを突いて、好スタートを切ると、危なげなく、二塁にたどり着いた。サインかどうかは誰も明かさない。

 「新井と飯を食いに行ったときは、おれがサインしてるよ。点が入ればいい」。

 金本は得意のジョークでかわしたが、指揮官と主砲の間にある「行けたらGO」の暗黙の了解。13日広島戦の8回と全く同じパターンだ。ここから、1死満塁とチャンスは広がり、代打桧山も執念を見せた。三塁へのゴロで全力疾走。ヤクルト守備陣は併殺が取れずに、貴重な1点を追加。「三遊間に転がり、ゲッツーはないと思った。1点や~、と思って走った」。ベテラン2人の激走は値千金の価値があった。

 猛虎打線は想像以上にタフだ。3番新井が腰痛のため、今季初めてスタメンから外れ欠場した。チームを引っ張ってきた主軸だけにダメージがないはずがない。それでも苦境を苦境と思わない明るさがチームにある。試合開始の直前、金本は新井とともにクラブハウスから出てきた。その前を常川チーフトレーナーが歩く。報道陣が注目する中で、通路に声が響いた。

 「常さん、新井は打てなくなると、腰が痛くなる傾向にありますね」。

 悲劇の主人公は思わずトホホ顔を浮かべたが、このやりとりに周囲で爆笑が起こった。一見、サディスティックに見える金本の言葉責めだが、暗くふさぎこんでいれば、新井は余計に責任を感じるだろう。あえて笑いに転化。アニキ流のやさしさだった。グラウンドでは全力疾走で鼓舞。ベンチで見つめる新井も勇気づけられたはずだ。

 3番不在でも勝てるチームを作り上げたのが、岡田監督だ。「(新井は)体調が良くないだけのこと。(得点機が少ないが)3番、5番がいないんだから、そうならざるを得ない。でも点が入らんときはそんなもん。出だしたら、どんどん入る。それが野球」。泰然自若で全く慌てなかった。4回の先制点はエラーが絡んでのもの。この日は適時打0で2得点。指揮官も主砲も他のナインも誰も動揺することなく、54勝目を手にした。

 ところで金本さん、今日の走りはどうですか?

 「まだまだ」。この答えにも強さの理由が潜んでいる気がする。【田口真一郎】