<オールスターゲーム:全セ6-12全パ>◇第2戦◇19日◇甲子園

 全パの日本ハム大谷翔平投手(20)が、日本選手最速となる162キロをマークした。先発し、初回先頭打者の鳥谷への2球目、5番阿部への初球で162キロを記録した。これまでは由規(ヤクルト)が10年に出した161キロで、外国人選手を含めた最速は08年のクルーン(巨人)の162キロだった。大谷のド派手なパフォーマンスで勢いづいた全パが12-6で全セに快勝し、対戦成績1勝1敗となった。

 日本人が誰も越えられなかった壁を、20歳の若者が突破した。聖地に集うスター選手たちの中でも、大谷はひときわ輝いた。初球、いきなりの161キロ。自己最速を更新すると、続く2球目だ。外角高めへ、歴史的な1球が投じられた。ファウルにした鳥谷が、球速表示を指さす。「162キロ」。確認し、はにかんだ。

 大谷

 真ん中目がけて思い切り投げるだけなので、何とか出て良かったと思います。打たれる打たれないより、そこを気にされてたと思うので…。

 期待に応え、クルーンが持つ日本球界最速記録に並び、球宴記録は塗り替えた。2死後、阿部の初球にも162キロをマーク。21球の直球はすべて157キロ以上と、異次元の投球で満員のスタンドに衝撃を与えた。

 心残りもある。160キロの速球を鳥谷、バレンティンに痛打されるなど、1失点。160キロ以上を安打にされたのは初めて。「結構打たれたので悔しい」。オール直球勝負も断念し、スライダーを2球挟んだ。だが降板時の拍手の大きさが、ファンの満足度を物語った。

 ここまで9勝、防御率2・23と、どちらもリーグ2位。投球フォーム、リリースポイントが安定し、制球、球速、変化球のキレなど、すべてがレベルアップした。その起点が、2月のキャンプ最終日にあった。

 ひとりでネットスローをする大谷に、武田久が近づいた。武田勝も、宮西も、いつの間にか、投手陣の輪ができた。投球理論や技術論を交わした。初めてのことだった。栗山監督は「あの日が、投手大谷が一流に成長するきっかけになるかもしれない」と言った。その言葉は、現実になった。

 一方、輪に加わっていた厚沢投手コーチは言う。「いろいろ話を聞いて、参考になったと思う。あいつ、打者では『ここで壁をつくって』とか、自分の理論がスラスラ出てくるのに、投球の話だと何もないんだもん」。投手として一皮むけるきっかけになった“青空教室”は、同時に、打者としての完成度の高さを物語る出来事でもあった。誰もなしえたことのない投打「二刀流」を、なぜ大谷はこなせるのか。その理由が、浮き彫りになった。

 そしてその実力はこの日、夢舞台で証明された。「(162キロは)シーズン中はないかなと思うけど、変化球は生きてくる。もっともっと練習して、高めていきたいです」。底知れないポテンシャル。本当に日本中を驚かせるのは、まだ先にある。【本間翼】