元巨人球団代表兼GMの清武英利氏(64)と巨人軍・読売グループ本社が、互いに損害賠償などを求めた訴訟の判決が18日、東京地裁で言い渡された。大竹昭彦裁判長は、清武氏に計160万円の賠償を命じた。一方、清武氏が求めていた請求はすべて棄却された。11年11月の「清武の乱」を発端とした訴訟は、巨人側の全面勝訴でひとつの区切りを迎えた。

 3年にわたる「巨人VS清武」の闘争に、司法の判断が下された。裁判所は清武氏に対し、合計で約160万円の賠償を命じた。清武氏の請求は棄却された。ハッキリ白黒がついた。

 当時巨人の代表兼GMだった清武氏は11年の11月11日、球団に無断で会見を開いた。「コーチ人事を、渡辺恒雄巨人会長(88=現巨人最高顧問)が鶴の一声で覆した」などと述べ、OBの江川卓氏をヘッドコーチとして招聘(しょうへい)するプランを暴露した。いわゆる「清武の乱」でチームは混乱に陥り、巨人側は会見の直後、取締役として不適格とし、解任した。

 巨人側は、独断で行った会見で誤った事実を公表し、重大な守秘義務にも違反したなどとして、合計1億円の損害賠償を求めた。清武氏側は不当な解任である上に、渡辺会長らが名誉を毀損(きそん)したとして、合計約6000万円の損害賠償を求め反訴した。

 今年6月には渡辺、清武両氏の口頭弁論、証人尋問が行われ、激しい論戦となった。感情論はあくまで枝葉であり、争点の中心はハッキリしていた。コーチ人事の決定権限は、誰が握っているかだ。

 巨人側は、渡辺会長が「僕の承認が必要だ」と話すなど、チーム事情に応じて各所で意見をもみ、ベストの選択を行うべきだと主張した。清武氏は「人事権は私にあった」と反論し、1度報告を済ませた後は、渡辺会長でさえも変更はできない、と主張した。大竹裁判長は巨人側の主張を支持した上に、機密事項である江川ヘッド案を清武氏が公表したことにより、その実現が頓挫したと指摘。社内の検討を経ないで行った会見自体も「特段の事情のある場合を除き、許されない」とし、会社法に違反していると結論づけた。

 清武氏がいかなる主張をしても、グラウンド外の話題で世間の耳目を集め、長きにわたってチームの足を引っ張った形となったことは明らか。判決を契機とし、野球ファンをこれ以上しらけさせてはいけない。<訴訟経緯>

 ◆11年11月11日

 巨人清武GMが文科省で会見し、渡辺会長が来季ヘッドコーチに江川卓氏の招請を進めたと暴露。岡崎ヘッドの留任は了承済みで、渡辺会長は球団を私物化していると主張。

 ◆同18日

 巨人が臨時取締役会を開催し、清武氏を解任。専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を務めていた。

 ◆同12月5日

 巨人と読売新聞グループ本社が、清武氏に合計1億円の損害賠償を求める提訴。

 ◆同13日

 清武氏が読売新聞グループ本社、巨人、渡辺会長の3者に計約6000万円の損害賠償と謝罪広告を求め提訴。

 ◆12年2月2日

 東京地裁で第1回の口頭弁論。

 ◆同3月15日

 朝日新聞が、巨人の6選手が最高標準額を超える契約金で入団していたと報道。

 ◆同5月26日

 巨人が朝日新聞の報道に、内部文書流出は清武氏の可能性が高いと発表。清武氏の本の出版社に対し、巨人の内部資料引き渡しを受ける民事執行。清武氏は関与を否定。

 ◆同6月5日

 清武氏が名誉毀損(きそん)に基づく損害賠償請求訴訟を提起。5月26日の執行に異議を申し立て。

 ◆同20日

 週刊文春が「原監督が現役時代に女性問題で元暴力団員に1億円を支払っていた」と報道。原監督は金銭支払いを認めた上で反社会的勢力との接点はないと会見。情報源として清武氏の関与を疑う手記を公表。

 ◆同7月17日

 清武氏が損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論。読売側は請求棄却を求める。

 ◆14年5月26日

 巨人は、清武氏が球団の機密文書をシンガポールの知人女性にコピーしたとして、引き渡しを請求する証人尋問。

 ◆同6月5日

 渡辺会長と清武氏が証人尋問に登場。コーチ人事についての解釈を双方主張。巨人側は、清武氏が女性に宛てたメールや音声を提示。