西武牧田和久投手(30)がキングカズに会った。宮崎・南郷キャンプ休日の10日、日南市で行われているサッカーJ2横浜FCのキャンプを見学。元日本代表FWカズ(三浦知良=47)とあいさつを交わし、海外挑戦や現役長寿の秘訣(ひけつ)など温めていた質問をぶつけた。キングの金言を受け、カズ魂を背負って球界で活躍することを誓った。

 視線を合わせられなかった。目の前に日本サッカー界のキングがいる。緊張感で、視界の端でしかカズを捉えられない。「初めまして、牧田です」「休みなのに来ていただいて、ありがとうございます。光栄です」。柔らかな物腰に、牧田は意を決した。「聞きたいことがあります…」。

 通常オフはゆっくり寝て過ごす。だが「カズに会わないか」という本紙の提案に目を輝かせた。同じ静岡出身で競技は違えど伝説的選手。「小学校の時の担任がカズさんの昔の担任だったみたいで『小学生なのに上のレベルを求めて中学生と一緒に練習をした』という話を昔、聞きました」。対面が決まり心躍った。自らサイン色紙も買った。岸、野上から「俺の分も!」とサインを託された。

 練習場に着き、すぐにカズを見つけた。「オーラが違う」。若手と同メニューをこなし、練習の合間は補強運動を欠かさない。「走っている姿が若い。バネがある。絶えず鍛えていて時間も無駄にしていない」。横浜FC広報から「鼻骨骨折(94年、ジェノア時代)の1回しか手術を受けたことがない」と聞き、驚いた。「僕は社会人時代に右ひざの前十字じん帯を断裂した。すごいですね」。レジェンドのすごみを知った。

 西武での活躍の先にメジャー挑戦の夢を持つ牧田は海外挑戦について聞きたかった。

 牧田

 環境や言葉、海外の難しさは何ですか?

 カズ

 メディアの目が日本とは比較にならない。コンディションが悪ければフィジカルコーチがたたかれる。結果を出さなければ選手も。でも深く考えない方がいい。言葉はサッカー言語と言うけど、ベースボール言語もあるでしょう?

 コミュニケーションは取れる。全身で気持ちを伝えることも大事だと思う。

 15歳でブラジルへ渡った開拓者。膨大な経験値はプロ30年間で培われた。牧田は約2時間のハードな練習を見て、思った。「これだけの練習をしていたら選手の平均寿命が短いのが分かる」。だがカズは常識を壊し続ける。「僕は負担のかかる下手投げ。現役は長くはないと思う」と言うと、カズは「知っているよ」とサブマリンをマネた。

 牧田

 47歳までやれる秘訣は何ですか?

 カズ

 よく聞かれるんですけど、ないんですよね。確かにトレーニングもやらないといけない。それ以上に“気持ち”じゃないかな。このキャンプでも30歳下の17歳の子と練習している。でもグラウンドに出たら関係ないし、幸せに感じている。サッカーを続けたいし、もっとうまくなりたい。試合のメンバーから外れたら今でも悔しいし、プロになった18歳の時から変わらない。初めて負けた時の悔しさ、初めて勝った時の喜びをいつまでも忘れなければ、続けられると思う。

 牧田はカズ魂に触れた。「初心を振り返らないと。やりたくてもやれない人もいる。やれることの幸せを感じないと」。原点に立ち返れば、活力は生まれる。

 牧田

 カズさんは静岡を代表する偉大な選手。いつまでも応援しています。

 カズ

 世界の舞台で力を見せて下さい。(侍ジャパンの)小久保監督にもアピールして下さいね。

 最後はキングの澄んだ目に吸い込まれ、対面を終えた。「本当にいい1日だった。ファンがカズさんにひかれるのが分かる。僕も子供に夢を与えたいです」。牧田の名前にも「カズ(和久)」の文字が刻まれる。見学中、ポツリと言った。「僕もリトルカズになれますかね」。野球を愛し続ける純粋な思いを、カズからもらった。【広重竜太郎】