多くの人から「悩んでいます」と相談されることが多い。その大半は「悩んでいる」ではなく「迷っている」人がほとんどです。

迷いは「行動前」。悩みは「行動後」。僕は常にこう考えています。目の前にAという道とBという道がある。それをどちらに行こうかと考えるのは悩みではなく迷いです。

多くの人が自分の判断基準を持たないことによって生まれる迷いの多さ。それは学校教育が生み出した弊害のひとつだと僕は考えています。例えば部活動。先生や指導者がひとつの正解を持ち、それをしっかりと覚えることが正義とされる学校教育では、いつまでたっても自分の中に判断基準を持つことはできません。

学校では「正解がひとつあり、その正解を覚えているかどうか」の勝負です。テストでは、必ずひとつの正解があり、それを素早く導き出せた人が高得点を得られる。しかし、人生の大半を戦っていくことになる社会という世界では「正解がひとつ」ではないシーンのほうが多いはずです。

迷いには努力もなければ他者からのアドバイスも意味をなしません。迷いには答えがないからです。AかBという選択肢に対して、どちらが正解かと考えて行動ができなくなっているのだと思いますが、大事なのは選んだその道を正解にするという覚悟が必要です。

僕はプロ3戦目の舞台として、スイスで行われる国際大会に出場することを決めました。何を選ぶかは自分次第です。この大会を選ぶことが正解ではなく、選んだことによってどんな行動をするか。そして、その行動が未来につながっていくかを考え、自分なりの判断基準を大事に動き続けることが必要です。

そこに生まれるのは「迷い」ではなく「悩み」です。僕はこう考えます。

「悩み多き人生は幸せだ」と。

迷いには努力が生まれません。しかし、悩みには努力が生まれます。むしろ、努力なしにその悩みは解決されません。

選択をして決断して行動する。その先に生まれた悩みこそ、自分を成長させる最大にして最高の強敵なわけです。迷いは足踏みの数を増やし、努力した気になります。そして気がつけば自分はたくさん考えていて悩んでいて、でも答えを出すことが難しくて…と頑張っている気になっていきます。しかし、それは幻想であり、現実は一歩も前に進んでいません。

ここからさらに負のループに入り、答えを探す旅に出ます。でも迷いに答えなんてないんです。他者に依存して、誰かが必ず答えを持っていると思い、本を読み、セミナーに通う。そこには答えもなければ解決のヒントもない。なぜなら迷いは「選択と決断」でしか解決できないからです。

サッカーでも、日本では、監督やコーチの指示通りにプレーすれば、たとえ試合に負けても、少なくともチーム内で非難されることはありません。その積み重ねの結果、「監督やコーチの言うこと=正解」と捉えてしまい、とにかく監督やコーチの意向をくもうとし、監督やコーチの好みに合うプレーヤーになることを意識してしまう。

そして、そのチームでは欠かせない存在になったとしても、他のチームや海外クラブに移籍した途端、全然通用しない選手になってしまう。それは、ビジネスの世界でも、特に日本では垣間見えるシーンではないでしょうか。「社長や上司の言うことが絶対」という意識を強く持ち続けた結果、自分を見失ったり、自分が本当に持っている能力を発揮できないでいる人が、日本では少なくないように僕には見えます。

「正解はひとつで、その正解を知っている人がいる」のではなく、本当は「正解は無数にあり、知識や公式・必勝法というものは存在しない」のが現実で、そんな現実の中で、どう対処するかを自分で考え、行動するのが、グローバル・スタンダードだと言えると思います。

僕は、サッカー選手や格闘家を通じて、「正解はひとつではない」ということを痛切に学び、その中で「どうしたら自己実現に近づけるか」を念頭において、これまで戦い続けてきました。その結果、そういう視点で物事が見られるようになり、そういう視点で物事を見られる人間と知り合い、高め合い、自分らしい人生を歩んでいると自負しています。

僕自身、「学歴社会の勝ち組」からはほど遠い学生生活を歩み、ビジネスマンとして活動してきた。だからこそ、いち早く自分のOSをバージョンアップすることが重要だと気づき、その結果、NHKやテレビ朝日「激レアさんを連れてきた。」などのテレビで特集されたり、小学館から本を出してもらえるまでになった。

「学歴社会の勝ち組」だと思い込んでいる人ほど、甘い味を忘れられず、なかなか行動ができない。今後ますます変化していく日本のビジネスシーンで苦戦すると想像できます。むしろ、僕のような「学歴社会の負け組」のほうが、テストで良い点を取る勝ちパターンや、高い点数を取る論文の方程式を知らない分、他者に依存せず自分で選択し決断しやすいと感じています。

僕のこの主張もまた正解ではありません。だからこそ迷う前に行動をして、悩み多き人生を選び、自分の選んだ道を正解に導くための努力が必要だと考えます。

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。22年8月に同大会75キロ以下級の王者に輝いた。プロとしては22年2月16日にRISEでデビュー。同6月24日のRISE159にも出場し、プロ2連勝中。175センチ、74キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

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