新型コロナウイルスは人の生き方まで変える事態となっている。ボクシングでは日本ライトフライ級王者だった高橋悠斗氏が現役に見切りをつけた。昨年10月に初挑戦で王座奪取も、初防衛戦が今年3月15日、再設定された5月15日と2度延期されて決断した。

ジムは4月3日に「気持ちの維持が難しい」との理由で引退を発表した。後日に一般紙でも大きく報道されると「直接話も聞いていないのに」とツイート。そんな事情もあったのか、3日に元世界王者木村悠氏とのオンライントークショーで思いの丈を語っていた。

最初の延期で「結構、心が折れました」と明かすも「モチベーションが低下とはちょっと違う」と説明した。「世界を狙っていたけど、今のやり方だと収入面とか知名度とか変わらない」と続けた。

さらに「練習する時間をビジネスなど、自分の磨くことにあてたかった。食べていけないスポーツはたくさんある。そういった選手を盛り上げようと、会社設立を進めている」と今後へ意欲を示した。

高橋氏は国士大時代にキックボクシングで学生王者になり、プロでもランク2位までいった。就職の際にトレーナーと知り合ってボクシングに転向。4敗したが、ミニマム級1位まで浮上した。

1度は日本王座初挑戦が流れると、ライトフライ級に昇級してチャンスをつかんだ。その後にジムが立ち退き移転のために移籍。紆余(うよ)曲折をへて5年目で初挑戦をものにした。ダイエットジムの店長を勤めながら、次は2年で世界王者を目標に掲げていた。

現在は飲食店も開いたが休業に追い込まれ、自宅は水漏れトラブルでホテル住まい。波乱続きも次は総合格闘技への意欲も口にした。「3つの競技でチャンピオンなら日本人初だから」と。

3月19日のドイツを最後に世界中で興行が中止だったが、4月25日にニカラグアで再開された。前日計量ではマスク姿のフェースオフ。当日の観衆は1割程度の約800人に抑えられた。同国は感染者が少なく、野球やサッカーなども開催されている。韓国では翌日に無観客開催され、メキシコは5月開催が発表された。

日本は7月に新人王各地区予選で再開を目指している。全日本新人王は通常12月から、年度内の来年3月を予定する。東日本は12階級に130人がエントリー。3階級は決勝まで5試合だったが、20人が出場辞退して日程調整できた。

競技性から三密は避けられず、緊急事態宣言が解除されても練習法などにも課題は残る。まだまだ予断は許さない。辞退者は医療従事者、本人や家族の不安、ジムの判断などが理由という。高橋氏はこれまでも積極的な行動で人生を歩み、スパッと切り替えて今後へも前向きだ。一方で貴重なホープたちは無念の辞退と言える。

仕事もままならない現状に、他にもリングから離れる選手は少なからずいるだろう。選手人口が減少する業界への追い討ちだが、今の状況にどこまで耐え、踏み止まれるか。1人でも多くが再びリングに上がり、スポットライトを浴びる日が、1日でも早く来ることを願うばかりだ。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)