もうじき新年度のスタートとなる4月1日。入社式を控える初々しいスーツを着用した若者たちの姿は、春の風物詩でもある。3月12日に「格闘技デビュー」したIQレスラー桜庭和志(51)の長男SAKU Jr.(22=サクラバファミリア)もその1人だ。中学から大学まで10年間、柔道一筋の生活にピリオドを打ち、サラリーマンになる。「大きい結果を残せなかったですが、絶対にあってよかった10年間だった。実業団に行けるレベルだったら続けようと思いましたが、ダメだった。なので一般企業に行くことにしました」。新たな道を歩み始める。

競技は違うものの、総合格闘技の第一線で活躍してきた父と比較され「お父さんは強いのに」と言われたという。全国トップクラスの強豪高に進学したこともあり、周囲は全国出場経験のある選手ばかりだった。「高校の時、自分が弱すぎたこともある。レベルが違うところから強豪に行ったので差がすごかった」。実力差のある環境も自らが選んだ道。くじけることなく、全国トップの大学柔道部に入った。

端正な顔立ちは母譲りで「お父さんに全然、似ていないです。お父さんを受け継いだのは、歯並びの悪さと腕の長さぐらい」と笑うが、DNAを受け継いでいることを格闘技デビュー戦で証明した。父が主宰する組み技格闘技興行QUINTETファイトナイト6大会に参戦。8分勝負で時間内で一本が決まっても試合続行のエキシビション戦で柔術家の鈴木和宏(27=トライフォース赤坂アカミデー)と対戦し、両者が一本ずつ奪い合う熱戦を繰り広げた。

先にSAKU Jr.が柔道技の腕がらみで一本を取った。その技はサクラバロックと命名される父の必殺技でもある。SAKU Jr.本人は「自分は似ているとは思わない。お父さんの子供という印象があるからだと思いますよ」と振り返るものの、長い手足を生かして技に入る姿は父のムーブに見えた。入場曲も桜庭の「SPEED TK RE-MIX」で、着用したTシャツも父の「KS」マーク入り。桜庭長男を印象づける内容で会場を盛り上げていた。

「やっぱり柔道と違い、観客の盛り上がり方が違いました。スポットライトを浴びて気持ちいいです。足関節技を練習していたのでやりたかったけれど、一本は柔道技になってしまった。柔道家なのに足関節技をやれば驚くかなと思って練習していた」と“サプライズ”も起こそうとしていた。本来ならば格闘技界にとっても楽しみな存在になるはずだが、これが「最初で最後」の格闘技マッチとなった。

SAKU Jr.は言う。「普通には終わりたくないと思う。就職活動ですごく言ったのは『日本一』という言葉。柔道部が高校、大学で日本一を目指しているところだったので。格好つけて『日本一の営業マンになりたい』と言っていた。若い時から多くを経験したい。今は社会人で結果を出すのが目標です」。

その長男の姿に、桜庭は「俺も、親が反対してもプロになると言って好きなことをやった。(SAKU Jr.も)やりたいことをやればいい」と見守る姿勢を貫いている。趣味として格闘技の練習を続ける気持ちがあるというSAKU Jr.の人生の目標は「お父さんを超えること」。現在の父とのスパーリング勝負の現状も「自分が若くて、お父さんは言ってみればジジイなのに、練習していて一番勝てる気しないのが。それがムカツク(笑い)。お父さんもムキになってやってくるんですよ」と明かす。

米総合格闘技UFCの殿堂入りも果たしている偉大な父を超えることは簡単ではないだろうが、いつか父とのスパーリングで勝利した時、再び格闘技界で勇姿をみせてほしい。桜庭と同じ「人見知りで、目立ちたがり屋」という性格。きっと格闘技界に、QUINTETマットに戻ってきてくれると信じている。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

IQレスラー桜庭和志の長男SAKU Jr.は父の得意ポーズ
IQレスラー桜庭和志の長男SAKU Jr.は父の得意ポーズ