日米のマットで人気を博した米国人レジェンドレスラー、リック・フレアー(73)はラストマッチで「男の意地」を示していた。7月31日(日本時間8月1日)、米テネシー州ナッシュビルで開催されたプロレスイベント、スターキャスト5大会のメインイベントで「リック・フレアー・ラストマッチ」として引退試合に出場。公式マッチは11年9月以来、約11年ぶり。義理の息子となるアンドラデ・エル・イドロ(32)と組み、WWE殿堂入り者ジェフ・ジャレット(55)、ジェイ・リーサル(37)組と対戦。26分40秒、ジャレットを右ナックルパートと足4の字固めでKOし、3カウントを奪った。

何発も逆水平チョップを放ち、決めぜりふ「Wooo(ウー)!」と叫んだ。試合途中の場外乱闘で額から流血し、顔は血まみれになった。50年近くのキャリアを勝利で締めくくると、フラフラになりながらもリングサイドで試合を見届けた「地獄の墓掘人」ジ・アンダーテイカー、ブレット・ハート、ミック・フォーリーらと抱擁を交わすと涙を流した。

集結したファンから「フレアー、感謝します」コールを受けると、「ナッシュビルのファンを愛している。(ナッシュビル出身のアーティスト)キッド・ロックと一緒にお祝いする」とあいさつ。その後、アンドラデのサポートを受けつつ、自ら花道を歩いてバックステージに戻った。健康状態を懸念するファンの声が上がっていたが、試合後のロッカールームで医師2人に健康チェックを受け、流血以外の問題は特になかったという。フレアーは「空腹でご飯を食べにいきたい。ナッシュビルの夜を楽しみたい」と元気な姿のまま会場を立ち去った。

WWEでは08年のレッスルマニア24大会でショーン・マイケルズ戦が最後のリング。11年9月、米団体インパクト・レスリングでのスティング戦以来のファイトだった。その後、WWEなどでスーツを着用し、娘のシャーロット・フレアーのセコンドに入ったり、他選手と抗争したりとリングに絡んでいたが、試合はしていなかった。

フレアーは「リングに入り気取って『Wooo!』と言うだけの男だと思われているのは分かっていた。私がしなければならないのは自らを満足させ、みんなに『なんてこった』と言わせること」と往年のファイトを見せることを予告。トレーニング中では、1日500回のスクワットやエアロバイクなどのフィジカルから鍛えなおしていた。あまりのハードメニューで急激に心拍数が上がったり、胸の痛みに襲われて肺炎のような症状になったとも振り返っていた。足底筋膜炎も患ったそうだ。しかし「試合延期することは決してない。これを実現するために多くの人々が時間と労力を費やしてきた。今の状態を100%維持したかっただけだ」とプロ意識を貫いた。さらに「お酒を飲まないとうまくいかない」と引退試合まで毎晩、飲酒していた事実も口にしていた。

全日本プロレスでは天龍源一郎、ジャンボ鶴田、長州力、2代目タイガーマスク(三沢光晴)、輪島大士、新日本プロレスでも藤波辰爾、アントニオ猪木と対戦。米WCWでは武藤敬司の化身グレート・ムタと抗争を繰り広げた。米国では16度の世界王座(NWA、WCW、WWEを戴冠した実績を誇る。昭和、平成初期のプロレス界で歴史を築いてきたフレアーが、令和になった現在も大観衆の前で「まだやれる」というファイトをみせた姿は男らしくみえた。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)