横綱白鵬の38度目の優勝で幕を閉じた夏場所。1年ぶりの美酒に酔いしれる一方で、悔しさで歯を食いしばった力士もいた。

 5月1日。小柳改め豊山(23=時津風)は、東京墨田区の所属部屋で行われた新入幕会見で、満面の笑みを浮かべた。16年春場所で三段目最下位格付け出しでデビューしてから、身長185センチ、体重183キロの恵まれた体格を生かした押し相撲を武器に、同年九州場所で新十両昇進。負け越し知らずで新入幕まで駆け上がってきた。そして待望の「豊山」のしこ名を背負った。先代、先々代と同じ「新潟県出身」「東農大」「時津風部屋」の宿命。時津風部屋3代目の「豊山」が誕生となり「自分なりの豊山像を作っていきたい」と意気込んだ。

 新入幕を祝福するかのように連日、横綱白鵬、鶴竜、大関照ノ富士、関脇高安らが時津風部屋に出稽古に来て、胸を借りた。相撲を取っては投げられ、ぶつかり稽古では何度も土俵に転がされた。毎日、全身泥だらけになった。1週間で183キロあった体重が177キロまで落ちた。「これだけ(番付が)上の方に胸を出されたことはない。横綱にも胸を出してもらって、三賞取れなかったなら申し訳ない」と日に日に、夏場所へのモチベーションは高まっていった。

 5月14日。いよいよ始まった夏場所。巨漢の魁聖を得意の右のおっつけで押し出して、新入幕1勝を挙げた。またも始まる勝ち越し街道-。そう思われたが、試練が待っていた。2日目妙義龍戦で初黒星を喫すると、一気に8連敗で初の負け越しを味わった。得意の押し相撲が鳴りをひそめ、苦手な四つ相撲に苦戦。「自分でもどうしていいか分からない。苦しい場所ですね」と下を向いた。

 5月28日。千秋楽を白星で飾り、4勝11敗で夏場所を終えた。「あと1つ2つかみ合えばという感じだった。精神的にきつかった。こんなに長くて苦しい15日間は経験したことなかった。あらためて相撲の厳しさを知った。今までのままではダメだと。また一からやり直します」と振り返った。名古屋場所(7月9日初日、愛知県体育館)では、十両陥落が決定的。「1場所で戻ってきます」。3代目として、こんなところでは終われない。