また1人、角界のキラキラネームになりそうな、しこ名を持つ関取が誕生した。大相撲夏場所で6勝1敗の成績を収め、西幕下2枚目から名古屋場所(7月9日初日、愛知県体育館)での新十両昇進を決めた岩崎改め翔猿(とびざる)だ。

 関取になると、敬称としてしこ名の下に「関」を付けて呼ばれる。翔猿の場合は「とびざるぜき(翔猿関)」と濁音が3文字も入り、かんでしまうこと必至。付け人も大変だろうな、と余計なおせっかいを考えていると、当の本人が「予想としては『さるぜき(猿関)』じゃないですかね」と屈託のない笑いで返してくれた。翔猿が幕下時代の昨年末あたりから「関取になったら」と温めていたしこ名で、師匠の追手風親方(元前頭大翔山)は「最初に聞いた時に『猿翔(さるとび)』でもいいかな、と思ったけど、本人のたっての希望だったので」と受け入れたという。

 師匠の現役時代のしこ名から、同部屋の力士のほとんどに「翔」の1文字が入っている(例外は夏場所番付で幕内遠藤、十両大奄美、幕下岩崎の3人)。「猿」は想像通り、本人の相撲スタイル、取り口に由来。「動きがサルっぽいところと、申(さる)年生まれ。じゃあ、翔猿でいいんじゃないかと、親方と相談して決めました。覚えてもらいやすいかな、と思いますし」と笑みを浮かべた。

 動物の名前が入るしこ名としては「三毛猫」「大虎寅吉」「野狐」「月ノ輪熊之介」などの“珍名”が、過去にある。鳥類など生物に広げれば「鳳」「鳥」「鳩」「竜」「麒麟(きりん)」なども。だが「猿」を探しても、いまのところ力及ばず発見できない。173センチ、120キロの小兵力士。猿のように土俵狭しと動き回り、上に上にと番付を翔(か)け上がるようになれば、翔猿に追随する力士が出てくるかもしれない。

 3学年上の兄は十両英乃海(木瀬)で史上18組目(同時なら13組目)の兄弟関取。埼玉栄高では北勝富士(八角)と同期で1学年下に大栄翔、日大では大奄美と同期で2学年上に遠藤、1学年上に大翔丸。剣翔は埼玉栄高-日大で1学年上と、刺激にする力士は事欠かない。目指す相撲は「立ち合いで1つ当たって好きなように動き回って、基本は押しだけど、はたいたり」と「前に前に」にはこだわらない。同じ小兵の石浦を「いちばん取りたい力士」と目標に掲げる一方で、宇良については「居反られて新聞に載るのは嫌だから宇良関とはやりたくない」と取り口同様、自由奔放に口にする。

 ちなみに、新十両昇進会見の席に用意した色紙に、しこ名を書いてくれた部屋の行司が式守鬼一郎で、兄弟子に剣翔桃太郎がいる。そして翔猿の誕生。この後、しこ名に「雉(きじ)」「犬」が付く追手風部屋の力士が出れば、おとぎ話「桃太郎」の完成…と遊び心をもって相撲を楽しむのも悪くはない。名古屋場所で伊勢ケ浜、九重と並び6人の最多関取衆を抱えることになる追手風部屋。その期待のホープが見せる、俊敏な動きが楽しみだ。