春場所の新弟子検査を取材した。検査場は大阪警察病院。受検者は43人。他の5場所は10人前後だが、卒業シーズンにあたることもあって、飛び抜けて多い。ちなみに中学卒業見込みが25人もいた。

 他競技のトップアスリート2人が目を引いた。

 東関部屋の18歳、馬場蒼(ばんば・そう)は、サッカーからの転身。全国高校選手権で優勝経験のある強豪、滋賀・野洲高で正GKだったというから“本物”である。レギュラーだった3年の時こそ、全国出場を逃し県予選4強止まりだったが、1、2年時は控えGKで出場した。

 「高校に入る前から、卒業したら(角界入りを)決めてたんです。ラグビーやってた父に『相撲やらないか?』と勧められて、名古屋場所で東関部屋に1週間、お世話になって(相撲が)おもしろいな、と思ったので」

 4歳から京都サンガのスクールに通っていたサッカー少年が、掛け値なしの、男と男の1対1のぶつかり合いに魅了された。181センチ、84センチの体は見るからに筋肉質。「みんなに『男になってこい』と言われています。3年で関取になりたい」と決意を語った。

 陸奥部屋の15歳、神谷元気は空手からの転身だ。ありがちなパターンだが、実績がすごい。元祖フルコンタクト系の極真空手で、ジュニアの世界大会2位、全国大会優勝。「最初はサッカーしてたんです。で、空手で足腰強くしたら、シュート力が上がると思って始めたら、おもしろくて…」。

 相撲転身を決意したきっかけは「空手で相手がいなくなったから」という。宮崎県川南町の川南道場に所属していたが、道場生が自分と女子の2人だけ。“出稽古”で鍛え、のし上がったが、身近に競い合えるライバルがいなくなった。国光原中3年の昨年10月、担任の先生の紹介で、東関部屋の宮崎合宿に体験入門した。当たり前だが、かなわなかった。そこそこあった自信が粉砕され、格闘魂に火がついた。

 「悔しかったです。でも、倒れちゃいけない、蹴りが使えないというのがおもしろかった」。自慢の正拳突きを掌底に、そして突き押しに生かして、押し相撲の道を歩むつもりだ。

 春場所では、元横綱大鵬の孫、納谷と元横綱朝青龍のおい、豊翔龍が序ノ口デビューする。馬場、神谷ら新弟子は、まず3日目からの前相撲。関取衆だけでなく、若い力に注目するのも楽しそうだ。【加藤裕一】