一生に一度の晴れ姿を、無音の会場で飾った力士もいる。初めての大銀杏(おおいちょう)に、真新しい締め込みで臨む新十両の翠富士は「静かだなと。ワーッという感じは来場所(十両に)残れば違うんでしょう」と、大歓声を想像した。8日目は日曜日。通常開催なら、女手1つで育ててくれた恵さんを会場に招くにはうってつけの日だったが「気にせず相撲を取れています」と快活に笑った。「親子3代」の幕内力士として注目を集める新入幕の琴ノ若は「逆にこの雰囲気にのまれないようにしたい」と浮足立つ様子はなかった。

新弟子にとっても、忘れられない場所になりそうだ。元横綱大鵬の孫で元関脇貴闘力の次男、納谷幸林(22=大嶽)は、3日目に初土俵を踏んで前相撲を白星デビュー。「もともと前相撲はお客さんが少ないと聞くので違いが分からない」と、ちゃめっ気があふれるコメントで報道陣を笑わせた。初場所から弓取り式を務める幕下将豊竜(23=時津風)も、独特な雰囲気に徐々に順応してきたという。序盤は親方衆の目線も感じたが「もういつもと変わりません。教わったことをやるだけ。相撲と一緒ですよ」と、泰然としていた。【大相撲取材班】