何もかもが異例の春場所。特に静寂に包まれた土俵上は、神聖さを感じると同時に寂しさもある。耳を澄まさなくとも聞こえる、いつもの本場所では聞くことができないさまざまな音。無観客だから当然-。しかし、それ以外にも静けさを作り出す要因がある。

地方場所ならではの光景が消えた。いつもなら支度部屋外の一般客も利用する広い通路で、出番前に体を動かす力士が多い。四股やすり足、若い衆にぶつかる関取衆など。しかし今場所は、通路での準備運動が禁止された。

力士らによると、準備運動をしている音で土俵上の力士の集中力をそがないようにするためだという。報道陣の動線の関係で、今場所力士が通れるのは東西の支度部屋を結ぶ一部の通路のみ。支度部屋外にいる親方衆や世話人らが目を光らせ、出番前の力士が準備運動のために通路に行こうとすると注意する。

場所前には報道陣が、力士と報道陣の間を柵で隔てて作られたミックスゾーンにスピーカーを設置するように協会に要請。しかし、スピーカーから出た音が土俵上に漏れては力士も集中できない、と認められなかった。NHKの放送席も、四方を壁で囲って音漏れを防ぐなど、あの手この手で静けさが作られている。【大相撲取材班】

北勝富士(左)と立ち合う白鵬(撮影・河田真司)
北勝富士(左)と立ち合う白鵬(撮影・河田真司)