王者田中恒成(23=畑中)がフライ級で初防衛に成功した。元WBA&IBFライトフライ級統一王者の挑戦者田口良一(32=ワタナベ)を3-0の大差判定で退けた。

両者による17年大みそかの対戦が幻となり、ようやく実現した運命の一戦。昨年9月に世界最速タイの12戦目で世界3階級制覇を飾った田中が、再び壮絶な打ち合いで「平成最後の世界戦」を制した。夢の5階級制覇を目指すドリームボーイは、着実に階段を上がっていく。

最終ラウンドで、またも田中がどつき合いを演じた。判定でも防衛は間違いないのに足を止めた。114発のパンチを繰り出した田口に応じ、130発も繰り出した。「倒したい」という本能と「思い切り打ち合いたい」という畏敬の念。ゴングの時、もつれるように抱き合っていた田口の重みを、田中は忘れない。「(自分に)ずっともたれていた。それぐらい出し切っても立っていた。そこに一番、学びました」。

昨年9月の木村戦は最終Rで、息を合わせた右の相打ちを3度。この日も再び壮絶な打ち合いを制したが「反省が多い。(パンチを)もらいすぎ」。苦笑いしながらもうれしそうだ。

強者しか興味はない。「俺にとって問題は、誰と戦うか」。“中国の英雄”鄒市明から敵地でベルトを奪った木村。“モンスター”WBA世界バンタム級王者井上尚弥と6年前の日本タイトル戦ながら、フルラウンド打ち合った田口。「絶対に逃げない人」だから戦いたかった。

木村戦は「気持ち」をテーマに走り込み、打ち合う覚悟、体力を作った。今回は「集中力」。スパーリングなどで田口の打ち出しをイメージし、反応を磨いたが当然走った。名古屋市内の平和公園。外周約2キロ、最上部へ99段の階段を毎朝走った。フィジカル担当の河合貞利トレーナーは「木村戦前は必死だったメニューを、淡々とこなした」。グレードアップした実力が支えだった。

木村戦に続く魂の殴り合いで13戦全勝(7KO)とした。来年はスーパーフライに階級を上げ、井岡一翔らをターゲットに日本ジム所属選手初の世界4階級制覇を狙うが、今年は防衛路線を敷く。極上の強者2人を破った後だけに次戦が難しい。「それはあるかもしれませんが、まだてっぺん上ったわけじゃないんで」。最終的に世界5階級制覇を「やることになると思う」と豪語する男には、いらぬ心配かもしれない。【加藤裕一】

 

◆田中-田口戦実現まで 田中が17年5月、WBOライトフライ級王者で2度目の防衛を果たしたアコスタ戦後、来場していたWBA同級王者田口にリング上で対戦要求。同年大みそかの統一戦に動きだした。だが、田中が同年9月のパランポン戦で両目眼窩(がんか)底骨折。計画は消滅し、田中は田口に直接謝罪した。その後、田口がIBFとの統一王者となるも昨年5月に陥落。田中陣営は同年9月にWBOフライ級で木村翔から王座奪取後、田口側にオファー。階級アップも検討していた田口が承諾、対戦が実現した。