ボクシングの元WBC世界スーパーフライ級王者で、現役時代は「アンタッチャブル」の異名を取った川島郭志さん(52)が、井上尚弥の4団体王座統一戦をチェックした。

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間違いなくバトラーは勝つつもりでリングに上がり、もっとパンチを出すはずだったと思う。でも、出せなかった。圧倒的な強さで3団体の王座を統一した今の井上には、目に見えない『オーラ』がある。さらに実際に拳を交えると、パンチはガードの上からでも強烈で、しかも高速。リターン(引き)まで速い。何かアクションを起こすとカウンターが飛んでくるし、打ち終わりも狙われる。だから怖い。ガードだけで精いっぱいだったのだろう。

その堅い防御を崩すために、井上はラウンドごとに戦い方を変えた。ノーガードで挑発、トリッキーな動き、強い左ジャブ……それでも相手が誘いに乗ってこなかったので、判定までもつれるのかと思ったら、11回にさらに1段階ギアを上げて、攻撃をバージョンアップした。右ボディーブローから連打、そして左ボディーブローでフィニッシュ。世界戦でいろんな引き出しを試して戦える。井上の強さを象徴していた。

今の井上に負ける要素は見当たらない。圧倒的な攻撃力だけではなく、ディフェンスも一級品。階級を上げても十分に通用するだろう。バンタム級では対戦相手と力の差があったが、ナチュラルなスーパーバンタム級で体が大きく、パワーがあり、勇敢に手数をどんどん出してくるようなA級選手が相手なら、井上の真の力を引き出してくれるかもしれない。本当に楽しみだ。何より井上本人が楽しみにしていると思う。(元WBC世界スーパーフライ級王者)