1敗の関脇栃煌山(28=春日野)が、ただ1人全勝だった横綱白鵬(30)も止めた。はたき込みで破り、2日連続の全勝横綱撃破。12年秋場所を最後に14連敗中だった最強横綱を引きずり降ろした。

 無数の座布団が飛び交った。その数は、前日よりもはるかに多い。館内の熱狂を一身に浴びた。過去29度の対戦で、たった1度しか勝てていない横綱を倒した。栃煌山は静かに、穏やかに喜びをかみしめた。「良かったっす。うれしいですね」。そして20本(手取り60万円)の懸賞の話題でようやく、顔がほころんだ。

 一切の迷いがなかった。白鵬には過去、何度も立ち合いで腕をたぐられて、体勢を崩された。だが「それが来てもいいと思った」。へそ前に重心を置く新しい前傾姿勢からの仕切りで、低く重くぶつかった。当たりは負けた。だが「低い位置でしっかり当たれた」。だから、そこで止まっていた今までと違い、次に体が動けた。右を差されても瞬時にはたき込んだ。最後の勝利から3年も止まっていた時間が、やっと動いた。

 「栃煌山」。山を極めるきらめき-。しこ名は母雪絵さん(57)が考えてくれた。読み方の候補には「とちおうやま」もあった。ただ、普段は穏やかな性格。それは土俵の上では必要ない。荒々しさ、力強さを求めて、濁音が入った「とちおうざん」とし、師匠の了承を得た。その力強さが今場所、きらめいている。

 新十両から9年も使う紫色の締め込みには常に、地元高知の両親から届くお守りを挟む。今回は3年前のモノをしのばせていた。3年ぶりに白鵬を倒し、3年前の12年夏場所の決定戦で逃した初優勝に向けて、上位は大関豪栄道のみ。「1日1日集中して、いい相撲で勝っていきたい」。土佐弁で、頑固で気骨ある男を意味する「いごっそう」。ぴったりな栃煌山が、優勝争いに来た。【今村健人】

 ◆栃煌山雄一郎(とちおうざん・ゆういちろう)本名・影山雄一郎。1987年(昭62)3月9日、高知・安芸市生まれ。安芸小2年で相撲を始め、安芸中で中学横綱。明徳義塾高では4冠。05年初場所初土俵。07年春場所新入幕。金星は2個、三賞は敢闘賞、技能賞が各2回、殊勲賞1回。幕内通算392勝337敗16休。得意は右四つ、寄り。189センチ、159キロ。血液型A。家族は両親と妹。

 ◆77年以来 栃煌山が2日続けて全勝の横綱を撃破。関脇以下が中日以降に全勝の横綱2人を倒したのは、77年初場所の関脇若三杉(のちの2代目横綱若乃花)以来。当時の若三杉は8日目に輪島、12日目に北の湖を破った。関脇以下で2日連続の横綱戦勝利は、昨年名古屋場所の豪栄道以来になる。