大関琴奨菊(31=佐渡ケ嶽)が会心の相撲で、14年名古屋場所以来のストレートでの勝ち越しを決めた。史上最多タイとなる58度目の対戦となった稀勢の里戦。昨夏から取り組む「ケトルベル」の体幹トレーニング効果で、1度は相手のおっつけに体が泳いでも低い体勢を崩さず、攻めて寄り切った。

 「ヨシッ!」と2度、言葉にならない雄たけびを上げた。勝った瞬間、そして懸賞を受け取った瞬間。「そういう気持ちでいったからじゃないですかね」。琴奨菊は心の内を明かした。そこに笑顔はなかった。「やり切った。必死だったから残っていない、何も」。

 武蔵丸-貴ノ浪戦と並ぶ、史上最多58度目の稀勢の里戦。出世を競い合い「意識しながら上がってきた」特別な相手だった。場所前の連合稽古では稀勢の里とだけ相撲を取った。なぜか。「一番強いから。稀勢の里を持っていけたら、ほかの力士も持っていける」。

 強さを認める相手との力勝負を前に、普段より20分早く場所入りした。取組前のルーティンの時間を十分に取る。準備万全で臨んだ。だから、強烈なおっつけに体が泳いでも、その後の反応が違う。上体が起きない。反対に左をねじ込み、右を強烈に絞って稀勢の里の体を浮かせた。後はがぶるだけ。「角度が良かった。しっかり膝が曲がり、意識していることがすべて当てはまった」。会心だった。

 昨夏、1つのトレーニングを始めた。ケトルベル。かのブルース・リーも取り入れたヤカンに似た器具だった。取っ手が丸く、振り子の反動で体幹を鍛える。

 「今まで筋トレは何回試みても続かなかった。ダメージが大きくて、次の日に何もできない。でも、ケトルは体幹だから、動かすと解ける。きついけど楽しい。自分にはもってこい」。

 見かけの筋肉でなく、芯を強くする。「力士は背中は強いけど、腹は背中より強くない。そこを鍛えたら強くなる。前かがみにならんとイカンのやから」。低い前傾姿勢をつくる努力の5カ月。ブルース・リー並みの強さが身についていた。

 3度目の無傷の8連勝。「まだまだ。どこに落とし穴があるか分からない」。自分を分かっているから、強い。【今村健人】

 ◆ケトルベル ロシアの伝統的なトレーニング器具。鉄製の丸い玉に取っ手がついた形がヤカンに似ていることから「ケトル」と言われる。グリップより先に重心があるため、ダンベルやバーベルより重く感じ、そういった器具が一部分の筋肉を鍛えるのと異なり、反動を利用することで体全体のバランスや体幹、筋持久力を鍛えることができる。ブルース・リーも取り入れていたという。琴奨菊は重量24キロのものなどを使用。