鶴竜の7場所ぶり3度目の優勝で幕を閉じた2016年の大相撲。琴奨菊の日本出身力士10年ぶりの優勝に始まり、豪栄道のかど番史上初の全勝優勝、白鵬の史上3人目の通算1000勝など話題が豊富だった。その陰に、好記録や珍記録も生まれた。今年1年間、幕内を務めた力士が対象の連載「第5回日刊スポーツ大相撲大賞」では意外な記録を表彰する。第1回は「寄り切らないで賞」の豪風(37=尾車)。

 まわしを取らなくても勝てる。そう証明したのは、年間で最も寄り切りでの勝利数が少ない「寄り切らないで賞」の豪風だ。通算46勝のうち、その数はなんと「0」。14年九州場所千秋楽での徳勝龍戦を最後に、丸2年(84勝96敗)も寄り切りでの勝ちはない。

 「(自分は)まわしを取る相撲じゃない。下から押して、中に入ってという相撲。まわしを取る相撲は習ってないんですよ」。柔道から転向した秋田・金足農高で、まわしをつかまずに突きや押しに徹するスタイルをたたき込まれた。中大時代には突き起こしや、懐への入り方などを磨いて学生横綱に輝いた。

 02年夏場所で幕下15枚目格付け出しでデビューしたころ、師匠の尾車親方(元大関琴風)から「お前はまわしを取って十分かもしれないが、相手がまわしを取れば十二分なんだよ」と助言された。「そこから、まわしを取らないようになりました」。170センチの小兵は、大相撲で最も見かける決まり手には目もくれない。「理想は押し倒し、突き倒し。やるからには、とことんやります」。

 幕内連続在位69場所。安美錦の十両陥落に伴い、秋場所から幕内最年長力士となったが、衰えは見られない。今年は全6場所で幕内に在位した年で最多となる4場所で勝ち越した。「まだまだ若いもんには負けない。体も年も関係ないんです。強い気持ちですよ、大事なのは」。自分の信じた道を、これからも歩み続ける。【佐々木隆史】