「前任記者はマジメな人だったのに」。稀勢の里の新入幕から三役昇進までの2年間は朝青龍が7連覇、白鵬が大関に昇進した時代。毎日は部屋に通えなく、大ざっぱな性格でもある私には、いつも皮肉を交えた会話だった。メキシコ大使館の歓迎会では、テキーラ一気飲みのじゃんけん勝負に誘われた。もう1人の関取と“グル”で酔いつぶし病院送りにしてくれた。常に彼がイジリ役、こちらがイジられ役だった。

 そんな間柄でも1度だけ本音を漏らしてくれた。東京駅ホームで2人きりの時、外国出身力士全盛の現状を尋ねると、予想外にも投げやりにボヤいた。日本出身力士の1番星の深い孤独と苦悩を知らされた。私は「見ている人はちゃんと見ている。いつか花を咲かせてよ」と、何の足しにもならない励ましで背中をたたくしかできなかった。

 「分かってるよ」。口をとがらせた、ほっぺの真っ赤な20歳の横顔に、葛藤を胸に耐え忍び戦い続ける苦しい大相撲人生を予感させられた。その通りに苦難の連続だったが、見事に花を咲かせた。私の中ではヤンチャなガキ大将だった稀勢の里がついに角界の顔になる。【04~06年大相撲担当・瀬津真也】