西前頭2枚目の阿炎(あび、24=錣山)が、連日の上位陣撃破だ。大関豪栄道を、わずか0秒8ではたき込んだ。前日6日目の横綱白鵬からの金星に続き、殊勲の星を挙げた。すべて初顔合わせとなった、三役以上との上位戦を終えて3勝4敗。上々の成績に加え、奔放なしゃべりで周囲に笑いを起こす“アビトーク”も健在で人気急上昇中。目標の新入幕から3場所連続2ケタ白星へ、勢いは加速するばかりだ。

 1秒足らずで阿炎が大関から初白星を挙げた。立ち合いは、もろ手で突いた。パワーで圧倒しようと、豪栄道が前に突っ込んでくるタイミングを見計らい、左に回り込みながらはたき込んだ。その間、わずか0秒8。前日の白鵬戦のように座布団は舞わなかったが、場内は大歓声に包まれた。テレビのインタビュールームでは「お母さんに早く報告したいので帰っていいですか」と話した前日に続き奔放な“アビトーク”は健在。全国中継で「今日はお父さんに」と話し、インタビュアーの笑いを誘った。

 前に出続けて快勝した白鵬戦と比べれば、相手の圧力に思わず引いた内容は劣る。それでも「勝ったことには変わらない。自信になったッス」と胸を張る。前日の32本には及ばないが、この日も15本獲得した懸賞は常々「自分で稼いだ実感がわく」と話す。高々と足を上げる四股は幕内で最も美しいと評される。考え方も技術の見せ方もプロ意識が強い。だからこそ引き揚げる際、ファンにもみくちゃにされながら終始笑顔。この日の懸賞の1本は、当日のファン投票で決まる森永賞。人気は急上昇中だ。

 自由な言動は今に始まったわけではない。高校進学前には、全国屈指の相撲の強豪校からも誘いを受けたが「すぐに断った。地元の友達と遊べる方がいいから、4駅で通える高校を選んだ」と、千葉の県立高に通った。一方で仲間を大切にする人柄から、前夜は100件超の祝福メールが届いた。前日、母早苗さんに電話で報告した際は互いに涙を流した。それでも「今日、お父さんも泣いてたら笑っちゃう」と笑った。

 これで三役以上との対戦を3勝4敗で乗り切った。「先場所も3勝4敗から10勝した。あと1つ負けても大丈夫だから気は楽」と、目標の新入幕から3場所連続2ケタ白星へどこまでも前向き。前日は酒は控え、自作のはちみつレモンで静かに乾杯。阿炎が土俵と土俵外の言動でファンを酔わせる続ける。【高田文太】