関脇経験者で東幕下14枚目の豊ノ島(34=時津風)が、今場所の4番相撲に登場。同20枚目の豊響(33=境川)を上手出し投げで破り4連勝。ストレートで勝ち越しを決めた。

 立ち合いの力強い踏み込みで二本を差して攻勢。そのまま寄り立て左は深く差したまま、右は浅い上手になったが、なおも圧力をかけ続ける。懸命に残す豊響の体重が前にかかった瞬間、体を左に開き絶妙なタイミングで右からの上手出し投げで転がした。先場所途中から体に染みこませている「前に」の出足と、熟練の技が融合した末の、勝ち越し星となった。

 幕内上位の常連だった両者が対戦したのは、3年前の名古屋場所が最後。ここまで通算9勝4敗と合口は良かったが「その通りの相撲が取れるとは限らないし、それよりも立ち合い重視の相撲を心がけたのが良かった」と雑念は振り払って臨んだ。

 もちろん相手も、心臓の病で幕下に陥落し、再起をかける身であることは分かっている。自分と重なるものがあるのは確かで、3番相撲を終えた後は、一緒になった支度部屋の風呂場で「全勝で対戦しよう」と約束し合ったほど。この日も取組前の土俵では「自分のは見えないけど、豊響に大銀杏(おおいちょう)がないのは違和感があった。相手もそう感じたかもしれない」と言う。もちろんチラリとでも感傷に浸るのはそれぐらいで「勝負だったんでね、それぐらいで」と話すが、かつて、しのぎを削った相手の一人と肌を合わせ「思い切りぶつかられたから1番取っただけで腰が痛い。いい当たりだった」と心地よい余韻に浸った。

 幕下陥落10場所前で1番相撲から3連勝はなく、もちろんストレート勝ち越しは初めて。番付発表から描いていた7戦全勝=関取復帰の目標まで、あと3番と迫る。「それは頭の片隅に置いて、もちろん狙うけど、あまり意識せずに意識してね。せっかくいい内容だから、これを続けられるようにしたい」。帰り際に取材を打ち切る際には「じゃあ、(取材はこれで)いいですか? 早く帰ってお母さんに電話したいんで」と、阿炎の金星後の談話になぞらえてジョークを飛ばす余裕も見せていた。