8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、今場所最長58秒9の熱戦を制し、6勝目を挙げた。東前頭4枚目の千代の国を寄り切り。最後は上手投げで天を仰いだが、先に相手の足が出たことを確認する余裕もあった。前日6日目は千代大龍に初黒星を喫し、中日の今日16日は小結玉鷲戦。負ければ連敗で難敵を迎えるという悪い流れを断ち切り、6勝1敗とした。

激しい突き、押しからのいなしを3度耐えた。すそ払いも、土俵際の投げも踏ん張った。最後は再びの上手投げに裏返しにされた。それでも勝ったのは稀勢の里だった。千代の国の足が出ていたのが見えたか問われると「うん」と言って、うなずいた。相手が投げの体勢に入る前に勝負あり。負けたように見えていた場内の観衆は、勝ち名乗りの時点で稀勢の里の白星を確認し、少し遅れて大歓声が起きた。NHKは「今日も危なかった」と実況。大きな白星をこの日も拾った。

我慢に我慢を重ねた。30キロ軽い千代の国に、運動量で対抗するつもりはなかった。突っ張りの回転が落ちるのを待ち、左を差してまわしを取った。相手が振りほどこうと動き回るのも想定済み。勝機が来るまで、今場所最長58秒9を要するまで待った。取組後は苦笑いも見せたが「しっかりやりました」ときっぱり。逆転するべくして逆転した。

前日6日目に、千代大龍に敗れて初黒星を喫した。その千代大龍が、この日は直前に大関豪栄道に押し出され、土俵下の控えに座っていた稀勢の里の右足に直撃。痛そうに右足を触るアクシデントも起きた。何よりも前日の黒星で、残る平幕戦に取りこぼさなければ勝ち越しという計画に狂いが生じていた。中日は立ち合いに圧力のある玉鷲。敗れた千代大龍と似た特徴を持つだけに、この日敗れていれば、一気に暗雲が垂れこめかねない状況だった。

残る8番のうち7番が三役以上との対戦を控える。この日の取組を見た大関栃ノ心は「プレッシャーがあるのに、さすがだな。普通なら何回かあきらめるようなところがあったのに」と驚異的な粘りに感心した。横綱鶴竜も「いい緊張感、いい刺激でできていると思う」と、自身の取組にも好影響を与えていると語った。ライバルも警戒心を強め始めた。「復活」と自他共に認められる結果を出すには、一段と険しい道が待つ。そんな中で「まあ明日、しっかり集中していきます」と冷静に話した。復活への第1歩となる勝ち越しまで“マジック2”としても、気の緩みはまるでない。【高田文太】