2019年が間もなく終わる。この1年、相撲界では、さまざまなことが起きた。角界での「印象に残った10の言葉」を、1月から順に紹介したい。まずは上半期から。【取材・構成=佐々木一郎】

(1)「私の…、土俵人生において、一片の悔いもございません」(稀勢の里、1月16日)

横綱稀勢の里が初場所中に引退。両国国技館での会見で、こうコメントした。元ネタは、漫画「北斗の拳」に登場するラオウの名ぜりふ「わが生涯に一片の悔いなし!!」。稀勢の里は荒磯親方となり、出版した自伝のタイトルは「我が相撲道に一片の悔いなし」。こんなにラオウが好きだったのかと驚かされた。親方になってから出演したNHK大相撲中継では、その解説が適切でわかりやすく、いかに考えて相撲を取っていたかがよく分かる。荒磯親方が解説を務める日の中継は、録画してでも見る価値がある。

(2)「ジャストミートだねえ」(北の富士勝昭、1月27日)

玉鷲が初場所で初優勝を果たした。優勝が決まった千秋楽、次男が生まれた。NHKの大相撲中継でこのエピソードが紹介されると、解説者の北の富士さんは「ジャストミートだねえ」と思わず口にした。北の富士さんの自由奔放な発言は、視聴者を少しハラハラさせつつも多くの支持を集めている。和装から赤レザージャケットまでファッションも注目されており、こんなにモテる77歳はまずいない。

(3)「武士道精神を重んじ…」(貴景勝、3月27日)

貴景勝が大関昇進を決め、伝達式で口上を述べた。「大関の名に恥じぬよう、武士道精神を重んじ、感謝と思いやりの気持ちを忘れず、相撲道に精進してまいります」。あまり感情を表に出さず、伝統文化を重んじる貴景勝らしい言葉。その後、ケガに苦しんだが、土俵への姿勢に共感する相撲ファンは多い。

(4)「痛めてないですよ」(貴景勝、5月15日)

夏場所4日目、貴景勝は御嶽海を寄り切った際、右膝を痛めた。土俵上で一瞬動けなくなり、支度部屋では右膝をアイシング。うめき声を上げるなど、明らかに痛そうだった。ケガについて聞かれると「痛めてないですよ」とケガそのものを否定。取り囲んだ報道陣の多くは「いやいや、どう見ても痛めてるでしょ」と心の中で突っ込んだ。翌日から休場したが、弱音を吐かない貴景勝らしい一場面だった。

(5)「大統領に『センキュー』と言われました」(西岩親方、5月26日)

夏場所千秋楽、トランプ米大統領が観戦に訪れ、優勝した朝乃山に大統領杯を手渡した。表彰式の際、介添え役として大統領杯授与を手伝ったのが西岩親方(元関脇若の里)だ。本場所中に極秘で任命され、本場所終盤は打ち出し後、毎日のようにリハーサルを繰り返していたという。「控室で2度、『センキュー』と言われました。大統領から『センキュー』と言われる日本人はそう何人もいませんよ(笑い)」。日本相撲協会から信頼されるからこその大役。西岩親方にとって、名誉はもちろん、鉄板ネタができた。

(下半期に続く)